「日本は没落と苦悩に喘ぐ国となるのか—否、若者がいる」=フォーリン・プレスセンター理事長 赤阪清隆=第6回=自信と誇りを持て=日本的価値観を次世代へ

ニッケイ新聞 2013年1月11日付け

 もう一つ我々ができることは、日本人として自信と誇りを持つことです。清潔、誠実、他者への思いやり、忍耐力、清貧の思想、質実剛健、教育の重視や老人子供を大事にすることなど、日本の伝統的な価値観には、他の国々にはない良い面があると思います。
 このような価値観や美徳、文化、生活様式、自然との共生、急速な経済発展の経験と得られた教訓、そして新しい技術や知識の受容性などは、異なる文化をもつ他国の人々を刺激し、魅了する大きなパワーを有しています。
 日本のアニメやファッション、映画、寿司などの食文化、さらにはJ—Popなども海外にたくさんのファンがいます。ここに日本没落の気配は微塵もありません。
 私はこれまでに英国やマレーシア、スイス、ブラジル、フランス、米国など海外で25年ほど過ごしましたが、日本に戻っていつも感心したのは、お店や仕事場で働く人たちの、丁寧で優しい振る舞いと心配りです。特に女性の優しさ、優雅さには特別なものがあります。チップを求めての卑しい行いではなくて、他人への思いやりと自然と身についた嗜みが強く感じられます。こんな国民性を持った国は他にたくさん見つけられません。
 この間、こういう新聞記事に出会いました。ちょうど尖閣諸島問題で、中国で激しいデモが起こっていた時期のことです。
 中国人女性が出張で日本に来て、仲間の中国人とある店で食事をしていたら、店主がやってきて「中国人か?」と聞いてきた。彼女はてっきり、中国人への憎しみの言葉が投げつけられるものとびくびくしていたら、頼みもしない料理が運ばれてきて、そこには「中国謝謝」と書かれていた。店主は「日本に来るのを取りやめる中国人が多い中で、こういうときに来てくれてありがとう。日中友好を望んでいます」と言ったという。中国に帰った彼女は、素晴らしい日本人店主に会えたことの感動を、料理の写真と一緒にネットに載せたら、思いもよらない共感の声が寄せられたという話です。
 こういう話を聞くと本当にうれしくなります。そして、このような振る舞いこそ、日本人の持つ気高い寛容の精神であり、日本人であることを誇りに思います。こういう話を世界の人々に知ってもらいたいとも思います。
 ですから、我々は自らに自信を持って、このようなソフトパワーを確実に維持、強化していかなければなりません。特に日本の若い人たちが、日本の良い伝統的な価値を将来に受け継いでくれることが大事です。
 余り保守的になって、「だから日本は世界で一番いい国なんだ」と自己満足してしまっては、この先進歩がありません。独善に陥ることなく、世界に通じる普遍的な価値への信頼という共通の土俵の中で、そういう日本の良い面を保持してこそ、日本は国際的に名誉ある地位を占めることが出来ると思います。日本はそういうことが出来る数少ない国のひとつです。
 私の今の仕事は、外国報道関係者の日本取材を支援し、あわせて日本の価値ある情報を世界に発信することですが、日本及び日本人の素晴らしいところをもっと海外に報道してもらいたいと願って、様々なニュースや話題を提供しています。そうすることによって、日本の国の勢いを取り戻したいと思います。(つづく)