「日語教師に専門教育を」=USPで専門講座を開講=13人が1年半かけ履修=基金「さくらプロジェクト」で

ニッケイ新聞 2013年2月22日

 公機関の日本語講師養成の充実を—。国際交流基金サンパウロ日本文化センターが実施する、日本語教育に携わる国内非営利団体・機関を財政支援する「さくらプロジェクト」のメイン事業として、サンパウロ総合大学(USP)で日本語教師を養成する専門講座(especializacao)が昨年12月まで1年半かけて行なわれ、今月7〜9日に受講生の最終発表があった。日本語教育の専門講座が高等教育機関で開かれたのは全国でも初めて。

 授業時間は400時間で、教授法や日本文化、バイリンガリズムなど幅広い科目を設置した。
 公立学校の外国語教育センター(CEL)の日本語の授業は、日本語教育に関する専門教育を受けていない、他科目専門の教師が担当することが多く、授業レベルの向上が課題となっている。また、給与が少ないことから離職率も高いという。
 講座のコーディネーターを務めたUSP教員の松原礼子さん(二世)は「講座の実施で体系的に日本語教育を変え、教育観も変えることを目指した。教えるテクニックだけを覚えて終わりではなく、試行錯誤し、自ら改善する力をつけることが大切」と講座のねらいを語る。
 13人の受講者は、CELや語学学校、日本語学校などに勤める現役の講師がほとんど。日語教育についての研究や論文執筆経験のない人が多いため、指導教官をつけ半年かけて論文指導を行なったという。また、研究では現場からデータを取るなどして、講座後に実践に移せることを目指した。
 日本語学習者が多い国では公的機関で学ぶ人が多く、当地の日本語教育界でも、今後は公教育で日本語学習者の減少を補うべき時代にきているといえる。経済、ビジネス面でなく、韓国や中国が教育面でも勢いを増してきているなか、高等教育機関における日本語教育の専門講座の実施は意義深いものとなったようだ。

「情報交換の機会にも」=参加者らも成果噛みしめ

 最終日の9日はサンパウロ市の国際交流基金の事務所で行なわれ、約20人の受講生や関係者らが参加した。2人の受講生が発表し、それに対する指導員の講評が行われた。
 原スザナさん(27、二世)の最終論文は、日本語の複合格助詞(「によって」「に関して」「について」など)がテーマ。複数の中級の日本語テキストではどのように説明されているかを分析し、高評価を得た。
 論文は約80ページの大作。USPの日本語学科を卒業し、語学学校で日本語とポ語を教えている。「あまり研究されていない分野だと思って選んだ。自分の勉強にもなったし、中級以上の生徒に教えたことがないので今後実践に移したい。他の先生にも参考にしてもらえれば」と充実感をにじませた。
 講座については、「学部では学んだことがなかったことが学べ、とてもためになった。現役の講師が集まっているので情報交換の機会にもなった」と満足度が高かったようだ。
 非日系で日語、スペイン語教師のタニーノ・マルチネスさんは、サンパウロのCELで日本語を学ぶ非日系生徒の学習への動機について調査し、同じく講師陣から好反応を得た。
 発表と講評後、松原さんは「講師に必要な要素であるプレゼンテーション能力も上がったのでは」と受講生を労い、「本来2年ほどかけてやるところのものを一年半でやったので、とてもハードだったはず。皆熱心に頑張っていた。生徒の変化がみられて嬉しい思いです」と安堵した表情で語った。