コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年3月5日

 東日本大震災から2年になろうとしている中、NHKで、車のナビゲーターの情報や携帯電話やソーシャルネットワークの発信記録なども盛り込んだビッグデータ(巨大データ群)から当時の様子を再現、各分野の専門家の解説などを紹介する番組を見た▼画面上のグラフなどを見ると、技術の発展はこんな事も可能にするのかと驚く。例えば、自衛隊が救助をしていた活動と取り残された人のいた地域とがなかなか重ならない。地震直後は浸水地域から逃げた人が多かったが、その後は家族などを助けようとして浸水地域に戻ろうとした人が多く、津波の被害をより大きくしたなどの事実も判明した▼復旧した国道からわずかな距離の集落から救助を求める手紙持参の男性が来たが、道を開通させてついた時はすでに一人が死亡していたなど、見直すべき事は多い▼また、集積データをどう解析して何に用いるかは、各人の力量やデータと向き合う姿勢によって変わる事も実感。同じデータから得る情報や汲み取る意味は、解析者の持つ知識や経験、関心によって異なるだろう。科学の発展で得た知識や情報は、人を生かすために用いられる一方、誤った情報が人を絶望に陥らせたり犯罪に使われたりして、人を殺す例もありうる▼地震後に浸水地域に戻ろうとする人がいたというデータを前に、息子はその中の一人だったに違いないと涙を流した父親もいた。脳梗塞で動けない父親が低体温症を起こしたが、瀬戸際で救助された家族もいた。生死の境を分けるのは情報だけではないが、メディアに関わる者として、人を生かす情報、記事、言葉とはと考えさせられる一時だった。(み)