コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年3月14日

 よかれと思う記事を掲載しても何の反応もないとき、まるで暗闇に石を投げているような気分になるときがある。だからこそ、ときおり舞い込んでくる読者からの投書は興味深く読ませてもらうし、励まされることも多い▼「日本ごきょういくをしていないゆえ、つたないじしかかけない上、今、みぎ手のへんけい、いたみによってこんなひどいじをかかせていただきます(略)」というモジ在住の二世の女性からの手紙を落手した▼掲載したブラジル国歌の訳、ポ語の正確さに疑問を持ち、「一国の国歌のゆえ」(原文ママ)、確認してほしいというのが趣旨。文章は「私はブラジレイラ、せんぜんいみんの子」と始まる。両国の狭間に立った心境が読み取れる。続いて、本紙が最近扱っている勝ち負け問題に関する記事に言及。大人たちのヒソヒソ話に出てきた「カチぐみ」「しんどうれんめい」の会話の裏や謎が解けてきた、と綴る▼マリリアの小学校でブラジル人の子供から「日本人は悪魔が作った」とはやし立てられたことを振り返り、合点(?)がいった様子。周囲の雰囲気で醸成された幼少時代のぼんやりとした思い出が、半世紀以上を経て、本紙の関連記事を読むことによって晴れてくるのだろうか。こういう読み手もいるのかーと妙に感心しながら読み進む▼「こんなにむがくの私がしんぶんをよませていただけるのは、ルビーがふってあるため、ほんとうにかんしゃしております」と締めくくる。舞台裏を明かすようだが、ルビ振り作業を正直面倒だと思うこともあるだけに、暗闇から不意に背筋を伸ばされたような気になった。(剛)