しんかい6500=日伯の強い科学的協力関係=「歴史書き換える発見」=アトランティス説は否定

ニッケイ新聞 2013年5月30日

 日本の独立行政法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)は25日、サントス港に碇泊した支援母船「よこすか」内で、潜水艦「しんかい6500」を使った研究航海『Quelle2013』の一環として、ブラジル側研究機関と共同で行ったブラジル沖調査に関する記者会見を開いた。世界初となる南大西洋深海の調査を終えた藤倉克則・第2節潜行主席研究者は「日伯間に強い科学的協力関係が結ばれた」と満足げな表情で語った。

 ブラジル沖の調査は4月中旬〜5月上旬、5月中旬〜下旬の2回にわけて実施され、第1回ではサンパウロ海嶺とリオグランデ海膨、第2回ではサンパウロ海台への複数回の潜航が行われた。南大西洋への潜航調査は世界で初めて。
 記者会見には藤倉氏、共同総主席研究者の北里洋、ビビアン・ペリザーリの両氏が出席した。
 冒頭、北里氏は、メディア各社により「アトランティス大陸か」と報道された第1回潜航調査での花こう岩の岸壁の発見について、「大陸の一部が海底に沈んだことを示すもの。南大西洋の歴史を書き換える重要な発見」と話すとともに「多様な深海生物の存在を確認できた。南大西洋の海洋研究におけるフロンティアとなれた」と成果を振り返った。
 なおこの花こう岩について北里氏は「恐らく、数千万年前のもので、年代スケールが全く違う」と1万2千年前に沈んだとされるアトランティス大陸ではないとの考えを示している。
 続いて24日まで行われていた第2回調査について、化学合成生物群集(メタンガスや硫化水素ガスを養分とする微生物を食べる・体内に取り込むなどしてエネルギーを摂取する二枚貝、巻貝などの生物群集)の発見を目標として掲げたものの、発見に至らなかったことが報告された。
 これについて藤倉氏は「むしろ、極端に生物の量・種類とも少なく、探しても探しても見つからないという感覚だった」と本紙の取材に対して語った。ペリザーリ氏も「第1回調査と比較して、生物的多様性にこれだけ極端な差があるのは異常な状況。大きな課題であり、継続的な調査を進めたい」と意欲的に話した。
 今回採集した海底の堆積物や海水、微生物などの試料は、ペリザーリ氏が所属するサンパウロ大学海洋学研究所やブラジル地質学研究所などで分析が進められる。

 日系4校の50人が見学=JAMSTECが招待

 記者会見後には、JAMSTEC側の希望によって招待された、アルモニア学園、赤間学院、平成学院、大志万学院の4校計約50人の生徒と引率の教員らが、「よこすか」及び「しんかい6500」の見学会に参加した。
 はじめに、よこすかの操舵室で、江頭猛二等航海士から船についての概要通が、通訳を介して説明されると、生徒たちはメモを取りながら真剣に耳を傾けていた。
 「おじいちゃんが日本の海軍に所属していた」と胸を張る赤間学院のヤマザキ・ビニシウス君(12.三世)は「初めてこんなに大きな船に乗った。凄くカッコ良い! 来た甲斐があった」と興奮した面持ちで話した。
 続いて、格納庫に降り、しんかい6500を見学した。「本当にウキウキして来た」という大志万学園の三浦アンナさん(14、三世)は「こんな生き物みたことない」と、カメラを片手に深海生物の紹介パネルに目を輝かせていた。