ユタ——混交する神々=移民社会の精神世界=(3)=異国の信仰と共存する=心霊主義と祖先崇拝

ニッケイ新聞 2013年6月12日

 「ユタ」と呼ばれるようになるには、口寄せ、ハンジ、法要の3つをこなすことが必要で、「私もそこまでには達していない」とエレナさんは語る。男性の場合は「ユタ」とは言わず、ただ「霊媒師」(Medium)と呼ぶ。この条件を満たす霊媒師は、協会にわずか3人ほど。残りのメンバーは〃修行中〃だ。
 礼拝に参加していたある女性(57)は、2歳で沖縄から渡伯し、12歳頃カミダーリに襲われた。「頭や体のあちこちが痛くなったり、倒れたり、日常生活も送れないほどだった」と述懐する。
 医者を転々とした末、辿りついたのが同協会。「まだ通いだして2年ほど。パッセ(負の気のお払い、Passe)をしてもらいながら、力のコトロールの仕方を講座で学んでいる所」。協会は、彼女のような駆け出しのユタの学校でもあった。
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 西洋的信仰であるキリスト像、そのブラジル版守護神ノッサ・セニョーラ・アパレシーダやドニゼッチ神父に加え、日本の観音、神武天皇、アフリカ伝来宗教に由来する心霊界の賢人パイ・ジョアンが祀られている祭壇は、宗教にありがちな排他性とは真逆を行く祭壇だ。欧米や中東に見られる宗教戦争とは異なる、日本の神と異国の神等が仲良く共存した精神世界が広がっている。
 「一般にユタの祭壇には、仏教や神道、キリスト教などの偶像や牌などが無秩序に並べられるなどして」おり、こうした独特の寛容さは「教義、戒律の希薄さ」から来るという。(ウィキペディア項目「ユタ」)。
 つまり、この文化混交具合は、移民社会ブラジルとユタの相性の良さを象徴するものといえるだろう。
 『躍動する沖縄系移民』彩流社、2013年、201〜203頁)によれば、ハワイに住むユタも「自分たちは異国の人で、ここに来て生かされて住んでいるから」「明日に向かって楽しく生きていけるような宗教であればどれでも良い」と、キリストや火の神ペレなど、現地の神々にも手を合わせる。このように、ハワイでも同様に、ユタの信仰と現地の神々は混交している。
 県系移民が現地化していく流れに乗って、ユタが民間信仰の担い手として生き残っていくならば、彼女たちが異国の神々を受け入れ、現地に根付くのは、自然な成り行きなのかもしれない。
 エレナさんが控え室の書庫から数冊を引き抜き、「邪悪な霊に影響されないよう、いつも勉強が必要。これが私たちの教科書よ」と記者に見せたのは、心霊主義の創始者、フランス人アラン・カルデック(1804—1869)の著書だった。
 「心霊主義」とは、人は肉体と霊魂からなり、死後も霊魂は存在し続けるという思想で、約150年前に誕生した。当地に絶大な影響を与え、信奉者が約150万人以上いると言われている。
 有名なブラジル人自動筆記者シッコ・シャビエル(1910—202)はその一人で、その著書は5千万冊も販売され、映画になったばかりか、昨年SBT局が行った「ブラジル史上最も偉大なブラジル人」投票で1位になった。心霊主義とブラジル土俗信仰は切っても切れない関係にある。
 協会では、礼拝の後に個人相談と講座が開かれるが、個人相談が祖先崇拝に関連付けながら問題解決の手助けをするものであるのに対し、講座は霊的知識を広めるために開かれる。協会はこのように、沖縄の伝統継承と心霊主義という2本の柱があり、活動は全て無償で行われている。
 沖縄のユタが輪廻転生を説くことは通常ない。しかし、エレナさんは「輪廻は存在する。何度も輪廻し人生を繰り返すことで、人間はより完璧に近づく」と断言した。(つづく、児島阿佐美記者)

写真=ドニゼッチ神父(公式サイトより転載)