コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年6月21日

 「目覚めよ、ブラジル!」との紙を掲げて行進する数万人の若者の大半は、すでに〃目覚めた〃中上流の子弟が多いように見える。何に目覚めたかといえば、政治家の汚職、治安の改善、初等教育の充実、国民の数割を占める文盲者の根絶、無料保険制度SUSの充実、道路・港湾・空港整備などの最優先課題が、左派政権になっても遅々として進まない中で、W杯という見世物には大金を投じている現実に—だろう▼ブラジルはこの10年ほど、BRICsという幻想の中で、右肩上がりの経済成長期を生きてきた。この幻想を打ち砕き、〃目覚め〃させたのは4月のインフレ高騰だった。あそこから政権批判が一気に高まり、ジウマの支持率は急激に落ち、PTを見限ったその若者層が今回のデモの中心になった。この現象からは1990年前後に被った超インフレへの恐怖心が、今も国民には根強く残っていることが分かる▼注目すべきは、PTの支持基盤たる北東伯でもデモが起きている点だ。経済発展に伴って中流階級が増え、ようやく教育を受けた青年らがまず敏感に現実に目覚め、一般市民が追随した。若いブラジルが社会として成熟するための、重要かつ正常な過程を踏んでいると感じる▼バス賃値上げ撤回をサンパウロ州知事や同市長が宣言したことで収束に向かうか、または別の運動に変質していくのか、まだ見えない所だ。いずれにせよ、来年のW杯本番、大統領選挙では更に大きなうねりになるだろう▼興味深いのは、ジウマ大統領自身が40年前にはこの種の学生運動の最も過激な部分にいた人物だった点だ。もしや今回のデモ首謀者MPLから40年後の大統領が生まれるかも。(深)