コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年7月3日

 世界最多信者数を誇るカトリック大国ブラジルが、法王の来る直前にプロテスト(抗議行動)の国に変貌した——。この10数年間に起きた国民変化(中産階級や新教徒増加)の総決算のような現象が今回のマニフェストだ▼経済拡大期を利用して労働者党は、ボウサ・ファミリアなどにより貧困層の扱いを手厚くしてきた。「格差を減らす」という題目に異を唱える者はおらず、結果的に大統領支持率を底支えする制度として機能してきた▼当地は全国民が強制される義務投票の国だから、全員の意思が政治家のバランスに反映される。だから圧倒的多数を占める貧困者から支持を得た政党が優位に立つ。貧困者が喜ぶW杯や五輪開催などの大イベントは、今まで大いに大統領支持率に貢献してきた。でも中産階級が経済拡大で力を付け、体制に従順であるより、トルコやエジプトに学んで抗議行動を激化し始めた▼今回のマニフェストは学生ら若者が始めた「中産階級の反乱」に端を発していることを考えれば、PT政権で手厚くされず、多額の税金ばかり取られていた中産階級が「税金に見合った公共サービス(交通、医療、治安)をしろ」と抗議を始めたとも分析できる。以前の調査でも教育が高い層ほど政治家の腐敗に厳しく、教育が低いほど寛容との結果が出ていた▼MPL(公共交通無料化運動)の抗議行動は以前からあったが、今回異例の盛り上がりを見せたのは、コンフェデ杯に「W杯で浪費反対」デモを行うアイデアが中産階級のツボにはまったのだろう。カトリックは体制と上手に付き合う宗教という印象が歴史的に強いが、ブラジル民衆はプロテストに目覚めつつある。(深)