年々増える、孤老日本人=要介護—でも行き場なく=高額の入居費は援協負担

ニッケイ新聞 2013年7月13日

 病気、車椅子、寝たきり——しかし、面倒を見てくれる家族はいない。サンパウロ日伯援護協会(菊地義治会長)に送られてくる、そんな身寄りのない日本人高齢者が徐々に増えているという。引き取りを求める州や市の問い合わせは、ここ10年間で約5倍になったが、重度の要介護者が多く施設の空きは足りない。非日系の施設にも25人程度入居中で、一人分の入居費が月3千レアルかかる場合もあり、援協の負担は増すばかりだ。八巻和枝福祉部長は「今は人が簡単に長生きする時代。亡くなるまで30年世話した人も少なくない。皆を受け入れたいのは山々だけど、誰でも、というわけには…」と苦しい現状を語った。

 一人で暮らす高齢の日本人、路上生活者はかなりの数に上ると見られるが、「どれくらいいるか、つかめていない」と菊地会長。近所に住むブラジル人が善意で食事を与えるなどして面倒を見ている場合も多いが、「病気になると彼らも面倒を見切れなくなり、援協に助けを求めてくる」と言う。
 一番多いのは、病気や衰弱で病院に運ばれ、退院後援協に回ってくるというパターン。自力で生活できる人は去っていくため、援協にやってくるのは寝たきりや車椅子など要介護の高齢者。八巻部長は「あけぼのホームのように、こうした方をお世話できる福祉と医療一体型の施設がもっと必要。需要はこれからもっと増える」と言う。
 こうした「孤老」に多いのは、構成家族で渡伯した独身男性で、中でも年をとるまで農業労働に従事し、日系社会からも外れてしまったケース。「日本人は嫌い」と傘下の施設には入りたがらない、あるいは入居しても他の入居者と折が合わず、ブラジル人の施設に転居する人も少なくない。
 援協傘下の施設の入居者は約170人で、内45人は援協が費用の一部もしくは全額を負担しているが、前述のよう家族のいない要介護者はほぼ全員、非日系の施設にいる。
 将来の〃入居予備軍〃は、やはり路上生活者だ。援協は彼らの支援も行うが、話しかけると「うるさい」とすごい剣幕で怒ったり、嫌がって逃げていったりすることが多いという。「縛られるのが嫌」「元気なうちは自由がいい」と、路上生活をあえて選ぶ人たちだ。
 しかし彼らが高齢を迎え、体が不自由になれば、問題はさらに顕在化してくるだろう。
 援協はこれまで各ケースを慎重に検討し、「年を取った人、年金のない人、家族がいない人、家族がいても50年以上会っていない人のような、困窮度の重い人」を優先的に対応してきた。
 しかし、家族がいてもお互い高齢者で介護ができない場合、あるいは仕事も住む家もなく、人の勧めで自ら助けを求めて門を叩く場合なども含めれば、とても対応しきれない数に上る。とはいえ、ようやくデイケアセンター設置に着手し始めた段階でしかない政府も頼りにはならない。
 援協では現在、独居老人の家庭に必要物資や金銭的な援助をして高齢者の自立を支援したり、文化講座やデイサービスを実施し、高齢者の交流の場を設けたりして「予防」に力を入れている。
 「手がかかるようになれば、一番辛いのは自分。人と接して色んな活動をして、いい条件で年を取り、いつまでも元気でいてもらいたい」と、八巻部長は切実な想いを込めて語った。