湖西市女児自動車事故=藤本パトリシア被告に有罪=禁錮2年2月の一審判決=弁護士、控訴を検討中

ニッケイ新聞 2013年8月14日

 日本政府から要請されていた3件目の国外犯処罰(代理処罰)の一審判決が下った。2005年10月に起きた静岡県湖西市での自動車事故で、事故後に帰伯した日系人の藤本パトリシア被告(38)に対し、サンパウロ州裁判所サンパウロ司法区ピニェイロス第11管轄刑事部第一支部のアパレシーダ・アンジェリカ・コレイア裁判官は12日、2年2カ月の禁固、6カ月の運転免許停止とする有罪判決を出した。

 判決公判は開かれず、判決文が同日、州裁のウェブサイトで公開された。判決文では静岡県警の捜査内容を事実と認定し、同被告に2年2カ月の禁錮刑を科した。ただし週に4時間の社会奉仕活動を1年間、2カ月に一度の裁判所への出頭を2年2カ月続ければ、禁錮刑に服す必要はない。
 判決文には、事故の捜査が終わっていないにもかかわらず、同被告が日本の警察など関係機関へ通達せずに帰国したことも量刑に影響したとする記述もある。
 事故では山岡理恵さんが運転するワゴン車に乗っていた山岡理子ちゃん(当時2歳)が頭を打って死亡した。パトリシア容疑者は現場で警察の事情聴取に応じた数日後、家族と共に帰伯し、国際指名手配された。
 山岡夫妻は容疑者の日本への引き渡しを求め、外国人引き渡し条約締結、司法共助協定に関する署名活動を中心になって行い、わずか半年で70万人もの署名が集めるなど、代理処罰問題の起点となった事件だ。
 その後2009年に代理処罰申請の手続きがとられ、昨年7月末の初公判ではパトリシア被告の父親と姉が出廷して証言した。
 今年5月にサンタカタリーナ州ジョインビレ市内の地方裁で被告人尋問が行われ、被告の父ヤスヒロ氏と、弁護士に伴われて出廷した。「現場は青信号だった。帰国したのも突然解雇されて、なす術がなくなったから。私は無実」と全面的に起訴内容を否認するなど、これまでの主張を繰り返していた。
 「有罪判決なら、どんな内容でも控訴する」—。パトリシア被告の弁護人のエドアルド・コスタ弁護士は、判決前が出る前の本紙の電話取材にこう話し、「有罪になるとすれば、それは君たちのようなマスコミや日本の警察や政府、遺族を満足させるためのもの」と被告の無罪を主張した。
 判決が出た当日は「まだ正式に知らされていないので、後で(被告と)話して控訴するかを決める」とし、明言を避けた。弁護側が控訴するかどうかは近日中に明らかになる。
 伯日比較法学会の理事長を務める渡部和夫・元サンパウロ州高等裁判事は「被告人尋問から約3カ月の判決は早い。日本と比較したら罪が軽いのかもしれないが、ブラジルで有罪判決が出たということに意味がある」と評価した。
 遺族の山岡理恵さんは本紙からのメール取材に「出た判決がブラジルでどれだけの重みがあるのかよくわからないが、どんな判決が出ようと娘は戻ってこない。せめて出た判決に納得して控訴だけはしないでほしい。これからも変わらず、家族全員で理子を心の中で育てていく。署名にご協力くださった日系人の方々に感謝している」とのコメントを寄せた。