フジアルテ=帰伯者を進出企業管理職へ=かみ合わない求職と求人=逆に在日日系人には好機か=ポロロッカの波に乗れた?

ニッケイ新聞 2013年8月31日

 デカセギの大量帰伯による求職増と日本進出企業の〃第3の波〃を見込んで2011年、日本の総合人材サービス業大手「フジアルテ株式会社」(平尾隆志社長)がサンパウロ市に事務所を開設した。同社はデカセギが帰国する姿をアマゾン川の水が逆流する潮流現象になぞらえた「ポロロッカ・プラン」を掲げて、帰伯者を進出企業への就職を紹介するビジネスを展開している。これがうまく行けば、帰伯者は日本での経験を活かして当地の生活を安定化させる夢のような計画だ。同事務所の森山良二営業マネージャー(39、宮崎)に現状を聞いてみた。

 同社は、人材不足に悩む進出企業に「日本企業で『ものづくり』と『管理手法』を学んだ優秀な日系ブラジル人」「ブラジルで就労経験のある日本人」「外国留学の経験ある優秀な日系ブラジル人」を派遣するとの方針をかかげた。
 2年前の事務所開設当初700人程度だった登録者数は、今では5倍の3500人程になった。内、約4割はデカセギ経験者で、森山さんは「だんだん知名度が上がってきて、登録者が増えてきている」という。しかし、斡旋が成立したのはこれまでに百件余り。タイミングのズレや、求職者が希望する求人情報がない場合も当然あるが、登録者数の多さに比べ、進出企業の求人規準を満たす人材が少ないことも一因だ。
 「管理職レベルの求人が多い」との森山さんの言葉通り、同社のパンフレットの「紹介実績」の欄は製造部長、総務部長、営業課長、現地法人社長候補など、管理職クラスの職種が並ぶ。森山さんは「こういう職種は流暢な日本語か英語が必要だし、日本企業は学歴を気にするから大卒でないと難しい。ブラジルの事情に精通している人が求められるので、転職希望者など、元々ブラジルにいる人が就く確立が高い」と言う。
 日本で単純工場労働者をしていたデカセギ帰伯者は「登録はしているが紹介先がない」のが現状だ。中には通訳の仕事を得た高卒の日系人もいたが、管理職への道は険しい。「日本に長期間住み、日ポ両語のどちらかはしっかり話すが、ブラジルでの生活や仕事に自信がもてない」という心理的な壁もあるという。つまり、帰伯後に起業したが失敗したとか、当地の生活が肌に合わないなどの適応がうまく行かないレベルの求職者が多いことも、斡旋が成立しない背景にはあるようだ。
 そのような人は、再度デカセギを希望して同社に日本での仕事の斡旋を希望するが、日本での需要が低い今、同社が扱うデカセギ斡旋件数はわずか月10人程度だという。日本に帰るにも帰れず、当地への適応も難しい。従来とあまり変わらない帰伯者像が浮かび上がる。
 その一方で、本社と連携して在日日系人向けに行っている『紹介予定派遣』では、「大卒資格のないデカセギにも管理職へのチャンスがある」。これは在日日系人に国内企業で研修をさせ、最も優秀な人材を当地で新規立ち上げする企業に斡旋するというもの。日本語の会話・読み書きの能力や、日本での長い現場経験が重視される。これまでに17〜8人が製造業のリーダー等の職を得た。
 現時点で帰伯デカセギが管理職を得るには、「日本からポロロッカする」のが、最も可能性が高い選択肢と言ってもよさそうだ。