ざっくばらんに行こう!=ニッケイ新聞合併15周年記念座談会=(9)=ドイツ系新聞は世界戦略?

ニッケイ新聞 2013年9月10日

若松=読者が少なくなって購読料収入が減ってくるし、広告も減ってくる。そういう状態の中でね、これだけの新聞よく作っているって、毎日感心しています。
深沢=毎日のように「パパイが亡くなったから、もう新聞送ってくれなくていい」っていう電話が、購読部に来るんですよね。読者の平均年齢は70代後半じゃないかと思います。80代以上の読者になると「目がかすんできて新聞の字が読めなくなったから購読やめる」という方もいらっしゃいます。どんどん右肩下がりに読者が減っていく状況の中で、生き残りを模索しなくてはいけない時期なんですよね。
田村=
うーん。
深沢=後世に何を残していくかという点と、我々自身の生き残り策の一つとして、日ポ両語のバイリンガルで移民史の本を出すっていうのを一生懸命進めているんです。
 今までは日本語で書いて読んでもらってオシマイでした。でもこれからはポ語に翻訳して二〜五世にも読んでもらえるようにしたいと。彼らが自分たちのルーツに関心を持った時に手に取れるような本を出すことで、少しでも邦字紙の新しい役割を果たさなくてはという考えなんです。ぜひ孫やひ孫にプレゼントしてください。
 特に09年に出版した百周年記念写真集は、約80レアルという高価な本でしたが5千部をほぼ売りきりました。コロニアではベストセラーでしょう。
 また今年出したアマゾン移住80周年(2千部)も好評で、なんとか半分以上は売れました。特に日本からの慶祝団のお客さんとかにプレゼントして、すごく喜ばれているようですね。あと『ブラジル人のためのニッポンの裏技』(松田真希子著)の本も再販するなど、バイリンガル出版事業に力を入れているんです。

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田中=あと昔との違いといえば、今はインターネットがあるからだいぶ記事集めが楽でしょ。日本や外国の事情までよくわかる。
深沢=共同通信の配信もネットですから本当に早い。ほんの20年前までは、毎朝の時事ニュースや東京支社から提携紙の記事をファクスで送ってもらって、打ち直していた頃から比べたら、天と地の差ですね。
田中=
それだってまだイイ方だよ。だってその前は日本の短波放送ラジオを朝5時に聴きとって記事にする係がいたからね。今も変わらないのはコロニアニュースのネタさがしだね。
深沢=そうですね。これはネットでは入って来ない。
田中=
でも、よく連載記事が出ていますから、よくやっているなって思っていますね。すごく参考になります。
深沢=ありがとうございます。邦字紙がどう生き残っていけばいいのかという点に関して、なにかご意見は?
吉田=
20何年か前に、ヴァリグの招待でアマゾン地方をずっと回ったことがあるんだけど、その時、一緒に行った中にドイツ系の新聞の発行者がいたんだよ。
深沢=そうですか。珍しい出会いですね。
吉田=
もうあの頃で「ドイツ移民が始まって150年以上経っていて、もう読者がいないでしょう」なんて訊いたら、やっぱり「いない」って。「じゃあ、どうやって食ってるんだ?」って聞いたら、「ワーゲン、ベンツ、シーメンスみたいな大企業が我々を支えてくれる」と言っていたな。彼らの経営環境といのは、ある意味で素晴らしい。ドイツ民族にとって「ブラジルにはドイツ語新聞が必要だ」っていうのは、世界戦略の一つだっていう風にきちっと捉えているんじゃないかと思ったね。
深沢=ブラジルのドイツ語教育にも結構そういう支援が入っているって聞いたことありますね。
吉田=
日系企業はどうなんですかね。たまにトヨタの広告なんて見るけれど。そのへんの若松さんの意見をお聞きしたいんだけど。
若松=欧米列強と比べるとね…。考えなきゃね。
吉田=我々のようなか細い新聞でも、「ブラジルには日本語新聞が必要なんだ」と。企業にそういう理念が育たないのかと。
深沢=日本の進出企業からすると、日本から来ている新聞テレビの特派員の方が頼りになると思っていると思います。邦字紙は良くも悪くも現地化されていて日本のメディアとはちょっと温度差があるんじゃないかと。
若松=
たしかに日本からいろんな特派員がきているからね。(つづく)