コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年10月30日

 ブラジル人写真家セバスチャン・サウガードの最新写真集『Genesis(創世記)』の表紙には、左上に集中豪雨のような真黒な雲、そこから流れ出た川が大渓谷を通って右下へ流れていく、どこか水墨画の掛軸を思わせる構図——が見事に白黒写真で写し取られている。現在その写真展が開催中だ▼彼はミナス州の大農場主の息子で、1963年にUSP経済学部に入学した。翌年4月に軍事クーデターが起き、学生運動に身を投じた。活動家リーダーから「国外亡命するか、武装闘争か」と問われ、パリへ行き、以来そこを活動拠点にする▼最初エコノミストとして仕事を始めるが、妻のライカで視察先の現地労働者を撮り始めて目覚めた。写真集の代表作は00年『Migrations』(移民)など。有名写真事務所に属して報道・戦争写真を撮るが、あまりに悲惨な現場に身を置く中で体調を崩した。言語に尽くせないアフリカの窮状、世界の貧困を撮り続けてきた社会派写真家が行き着いた境地が、今回の写真展だ。サンパウロ市SESCベレンジーニョで12月1日まで開催中だ。野外室内の計3カ所で245枚もの傑作が展示され、しかも無料▼聖書の出だしと同名のこの写真展は、まさに人類の黎明期を想起させる一瞬を見事に切り取っている。輪になって歌う夕暮れのアフリカの部族、朝霧の川面を小舟で進む麻州のインディオなど、数千年前と同じ生活かと思わせる自然と共生した場面が写し取られている。絵画のような完璧な構図に加え、人物や動物の表情にもズシリとしたメッセージが込められている。一見の価値あり。(深)