コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年11月2日

 中国は大きい。広大な領土を持ち、人口13億5000万人は世界一を誇る。このうち漢民族が92%を占め、残る8%が云うところの少数民族である。あのダライ・ラマ14世のチベットや新疆のウイグル民族など55の少数民族が、経済的な裕福さとは遠い慎ましやかな暮らしを送っている。核兵器や宇宙衛星を打ち上げ、総兵力210万人を擁し巨大な海軍を育てた国防予算も驚異的な伸び方をしている▼この「人民解放軍」は、中国の共産党一党支配を支える軍事組織でもあり、政治への影響力も強い。こうした武力を背景として少数民族問題に対処してきたが、これらの対策が成功したとは見なし難い。先日の天安門車突入事件が、中国政府の抑圧に抗議する政治テロであるのは明らかである。新疆ウイグル民族の決死の行動であり、習近平指導部に計り知れない衝撃を与えた▼中国は少数民族についての問題はない—としているが、これは事実とは異なる。チベットからのダライ・ラマ14世のインド亡命と亡命政権の樹立が何よりの証拠だし、チベット僧侶らの相次ぐ自殺も漢民族支配への抗議と見ていい。2009年から始まったチベット仏教の僧らの焼身自殺は今年の初めには100人を突破している事実は重い。新疆ウイグルの状況も酷すぎる▼あの地域で中国は原爆実験を49回も重ね、ウイグル民族19万人死亡の悲しい報告もある。札幌医科大学の高田教授(核防護学)のものだが、天安門突入には、こうした悲惨な出来事を訴えるの意味も込められていたに違いなく、苛政は虎よりも猛し—への激しい憤りでもあった。(遯)