コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年11月19日

 チリ大統領選挙が決選投票にもつれ込んだ。軍政下の拷問で父を失い、自分も拷問を受けたミシェル・バチェレ氏は、幼少時には一緒に遊んだ仲のエヴァリン・マッテイ氏と女性同士の選挙戦を12月まで続ける▼日本なら第2次世界大戦の前後で時代を分ける事が多く、戦後生まれの首相とか、戦前移民といった表現が良く使われる。でも、第2次大戦の戦場にはならなかった南米では、軍政の前後かその最中かで時代を分ける事が多い。そういう意味では、ブラジルのルーラ、ジウマ、アルゼンチンのクリスチーナ、チリのバチェレといった大統領やその経験者、メンサロンで断罪されたジルセウ氏などは軍政期を戦ってきた人々だ▼これに対し、軍政時代の弊害なども見ては来たが、真只中を歩んできたとは言えないと思うのは、14年大統領選候補とされるアエシオ・ネーヴェス、エドゥアルド・カンポスといった若手達だ。この二人は60年、65年生まれだが、国外に目を向けると、ベネズエラの舵取りに不安を覗かせるニコラス・マドゥーロ大統領も62年生まれ▼軍政をくぐったかどうかだけで人間としての円熟味などは決まらないし、年相応の行動や判断が出来ない人も少なくない。若手が台頭して来ないような国には輝かしい将来を望むべくもないが、ベネズエラがクリスマス前倒しなどといった政策に走り、迷走状態かと首を傾げる有様では、若さより経験という声が聞こえてきそうな気もする▼自分の未熟さを自戒しつつだが、若くても円熟味を感じさせ、軍政下で辛酸をなめてきた人の思いも汲める、そんな人物台頭で諸国安泰となるのは何年後?(み)