連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(48)

ニッケイ新聞 2013年11月23日

「(この町に移動して直ぐ、私はホテル玄関の歩哨が四人とは無駄じゃないかと不審に思い、調べてみますと、玄関横のベンチを緑色に塗った時に『ペンキ注意のため歩哨を三人増せ』の命令文書を見つけました。ところが、ペンキが乾いても、歩哨取り消し命令を忘れ、一世紀もの間、歩哨が四人になっていたのです。その昔の命令文書を提出して申し立てしたところ、その功績だとしてホテルの管理を任されました。これは罰ではないかと抗議しましたが・・・、後の祭りでしたよ)」
 ベレンの街の中心街から離れ、アマゾン河支流のパラ河に面した一画に、森に溶け込んだホテルが現れた。
 普通のホテルとの違いはホテルの入口に銃を持った歩哨兵が一人ポツンと立っている事だ。その他は、リゾートホテルと言っても恥ずかしくなく、数世紀前の兵舎の名残をあちこちに残し、清潔で洒落たホテルで、あの問題の一世紀前の緑のベンチもあった。全体に簡素だが、ホテルの中心に大きなシャンデリアで飾られたアレイショス副司令官ご自慢の豪華なロビーがあった。この場所だけはアマゾンの奥にいることを忘れさせた。
 アレイショス副司令官は受付で数枚の紙にサインしながら、
「ニシ・タニサン、(軍曹が練った作戦では、明日の朝四時半に出発します。それで、ルート『PA‐140』の州道を南下し、密林に入る頃に空が明るくなってきます。このタイミングですと、予想外の事故があっても陽が落ちる前にトメアスに着けますから安心です。朝食は四時に用意させます。四時にあのロビーセントラルに集まって下さい。アナジャス軍曹と同行の二人の護衛兵も一緒に朝食をとります)」
「(色々と、ありがとうございます)」
「(ご一緒出来なくて本当に残念です。では、いい旅を、・・・)」アレイショス副司令官は用意していた自家用車で帰った。運転手ごと、軍の副司令官専用車を貸し与えたのだ。ジョージとの強い絆の表れであった。

第六章 誠実

 朝四時、西谷と中嶋和尚はセントラルロビーに出た。ベレー帽をキザに被り、半ズボンの軽装備のアナジャス軍曹と迷彩色の軍服に拳銃や大きなナイフをぶら下げた重装備の二人の兵が、立てかけた旧型の小銃に注意しながら、椅子から立ち上がり、二人に敬礼した。
「ボン・ジア!(お早うございます!)」
「ボン・ジア(お早うございます)」
 五人は充分な朝食を取った後、作戦通り四時半きっかりにホテルを出た。