「有機食品で人を幸福に」=人生を豊かにする有機農業=10年間の成長率300%=生産者の半数を日系占める

新年号

 農業大国ブラジルは、知られざる「農薬大国」でもある。かつてそれで健康を害した日本移民も多かったことから、いち早く多くの日系人が農業に取り組んできた歴史がある。この20年余りは健康志向の人々の増加に伴い、当地でも有機食品が注目を浴びるようになった。サンパウロ市アグア・ブランカ公園で20年以上にわたり開かれる「フェイラ・オルガニカ」では、野菜・果物はもちろんパン、ジャム、乳製品、卵、蜂蜜にいたるまで豊富な有機食品がそろう。過去10年間の有機食品市場の成長率はなんと300%。今年は政府も80億レの投資を決めるなど、急成長が見込まれる市場といえる。同フェイラを主催する有機農業協会(AAO、89年設立)をたずね、有機食品市場の現状を聞いてみた。

 「元気の秘訣は、毎日食べている有機食品よ!」。毎週買い物にやってくるという87歳の女性客は、カートを片手に溌剌とした様子で品定めをする。子連れ夫婦から高齢者まで、のどかに買い物を楽しんでいる。常連客の笑顔に、農家の顔もほころぶ。

 同公園で週3回開かれるこのフェイラは、生産者と消費者の出会いの場だ。有機食品の普及と国民の意識向上を目指して1991年に始まった。

 同協会のマルシオ・スタンジアーニ渉外担当(55)によれば、「初めはわずか6家族の生産者しかいなかったが、今では約100家族が産地直送販売をしている。フェイラに参加してない生産者も含めれば約3百の会員がいる」という。生産者でない医者、ジャーナリスト、主婦などの会員も加えると3千近くになるという。

 有機バナナなどを売る村上ファビオさん(30、三世)は、「認定を取るには2年、金額にして1万レアルはかかる。水も天然水を使わないといけないし、1年ごとに再審査があるから結構厳しい」と言うも、表情は誇らしそう。「ほら、味が違うでしょう」と差し出した有機バナナは、サイズこそ農薬使用品より小さいが、一口で風味の豊かが実感された。

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89年に有機農業協会設立=人生を豊かにする哲学

 89年に誕生したAAOは、ブラジルで最も古い有機食品の協会。技師の続木善夫さんが中心となり、全伯から集まった研究者や医者、農業技師、生産者ら50人が立ち上げた。

 同フェイラに初回から参加しているジョージ・ホリタさん(59、三世)によれば、「80年代に有機食品を普及する運動が興った。90年にはマイリンケの日系農家も『自然農法協会』を作った」。しかし「オルガニコ」という言葉すら認知度が低かった当時、「農薬なしで作物を作るなんてコロニアでさえ誰も信用しなくて、つぶれてしまった」と草分け期の苦労を振り返った。

 一方で、「有機作物の普及に大きな役割を果たし」(マルシオさん談)、今も存続を続ける団体もある。教祖・岡田茂吉氏が開発した「自然農法」に則り、教会内で有機食品の普及を進めていた世界救世教だ。「利益重視ではないから価格も安く、多くの人に有機食品を提供していた」という。現在は有機鶏の先駆けメーカー「Korin」などが知られている。

 他にも「ビオジナミコ」(Biodinamico)というドイツ発祥の方法などもあったが、いずれも無農薬栽培による健康的な生活という志を共にしていた。それら各種名称は法律発布後、「オルガニコ」に統一された。

 「どんなものでも農薬を使わずに作れる」とホリタさんは断言する。体調を崩し、当初は自身のためにと父が始めた有機農業を受け継ぎ、年間で50種類に及ぶ有機野菜作りに精を出す。

 「有機食品は単なる健康食品ではなく、人間関係や人生を豊かにするもの。これからも良い心で頑張って野菜を作り、有機農業を通して人々を幸せにしたい」との信念を強く持っており、「こういう哲学がなければ有機農業は続かない」とでも言うかのように熱っぽく語った。

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 安心、安全、持続可能な栽培方式を用いる有機とそれを使った食品、それを支える思想的な背景――これらは一つの農業文化の到達点でもある。当地でも着実に市民権を得つつあり、今後も市場拡大が続く見込みだ。有機生産者の半数近くを占めるといわれる〃農業の神様〃日本人とその子孫も、有機食品運動の波を共に作り、今も普及を続けている。

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拡大する国内消費と輸出=07年に有機食品法施行

有機マーク

有機マーク

 有機食品市場の年間販売額は2010年に3億5千万レアルに達し、前年比で40%の成長を遂げた。砂糖、大豆、コーヒー、果物類などは国外にも輸出されており、こちらも額は1億レ以上に及ぶ。

 また、ブラジル・スーパーマーケット協会の調べによれば、国内90%以上の家庭が何らかの有機食品を置いており、サイト上で実施されたアンケートでは回答者の74%が「もっと安ければ買いたい」、20%が「近くに有機フェイラがあれば買いたい」と回答するなど、国民の関心は高い。

 そんな高まりを受けて、ようやく「有機食品」を定める法律が2003年(Lei 10831)に制定され、4年後に施行された。人体や環境に悪影響を与える化学肥料、農薬、遺伝子組み換えを使用しないことを基本とし、様々な規制が課せられる。ECOCERT、ANC、IBD、などの有機認定機関で認められた食品だけが「オルガニコ」と名を打て、スーパー等で販売するは国内唯一の有機マークが付与される。