日本で育つ日系国際人材=岐阜のブラジル人学校HIRO学園=(上)=当地難関大への進学者続々=「教育の質が何より大事」

ニッケイ新聞 2014年1月8日

2013年の卒業式の模様。門出を祝う生徒たち(写真はいずれも川瀬理事長提供)

2013年の卒業式の模様。門出を祝う生徒たち(写真はいずれも川瀬理事長提供)

岐阜県大垣市にある学校法人「HIRO学園」は2000年の開校以来、名門サンパウロ大学(USP)への合格者を毎年出すブラジル人学校だ。07年度時点では12県に88校存在した(文科省調べ)ブラジル人学校だが、08年の金融危機以降は親の失業で退学者が相次ぎ、11年5月現在で72校まで減った。存続こそしているが、教育の質の問題や経営難に苦しむ学校も多いという。そんな中、今も250人が在籍し、当地難関大への入学者を毎年出す同学園は、ブラジル人学校の一つのモデルケースだ。創立者の川瀬充弘理事長(58、岐阜)や、実際にUSPに入学した卒業生に話を聞いた。

「開校以来、教育の質、つまり良い教師、教育環境を整えることを念頭に置いて経営してきた」と川瀬理事長は言う。サンパウロ大学に進学した卒業生は20人を数える。他にもサンパウロ州立大、ブラジリア大、ロンドリーナ州立大、マリンガ州立大学など、有名公立・私立大への進学者がいる。

開校以来、1学年1クラスの体制を続ける。幼稚園の年長から初等教育9年、中等教育3年、ブラジルのカリキュラムと同じだ。

職員数は26人。教師はブラジル人12人、日本人4人、アメリカ人1人で、川瀬理事長を含め全員、出身国で教師資格を取得している。つまり、日本にいながらにしてほとんどブラジルで教育を受けているのと同じ状況を整えている。特に高等科の教師は意識やレベルも高く、昼休みや放課後に自分の時間を裂いて補習を行うほどだという。

しかし、地域社会から孤立してしまうと学校開設の目的から外れる。「ここから国際社会を見据えることができるように」との方針のもと、週に一度は日本語の授業を行い、日本の小中学校と交流会をしたり、課外授業、遠足や修学旅行で日本文化を学ばせたりもする。その成果か、日本語能力検定N1の合格者は20人以上、スペイン語検定に合格した生徒もおり、まさに国際的人材を育成しているといえそうだ。

高校(中等教育課程)1年生になった生徒には、将来設計を立てさせるようにしている。近年では、岐阜県の国際交流センターとともに進路ガイダンスも行うようになった。「他校のことはわからない」と前置きした上で、「経済的に苦しい今でも、教師の質を考え教育環境をより良くしようとしている。その結果が、子供達の高い学力につながっているのだと思う」と言う。視察を訪れる人からも「HIRO学園の教育環境は日本一」との言葉が出る。

◎  ◎

「他の学校は知らないけど、私にとっては普通のことだった」。当地に帰国しサンパウロ大学に進学した卒業生の一人、松崎ビアンカ亜由美さん(18、三世)は、幼稚部から高校までを過ごした学校について、そう事も無げに言う。

昨年11月に帰国後、受験したのはサンパウロ大学だけだったが、一発合格。今年から観光学科で学ぶ。

CIATE(国外就労者情報援護センター)で朝8時半から午後5時半まで働き、夜学で勉強し、授業後にジュンジアイー近くのカイエイラスにある自宅まで帰るという生活だ。

「勉強は難しくない?」との質問には、「そんなに大変じゃない」と余裕の表情だ。(つづく、田中詩穂記者)