連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(89)

ニッケイ新聞 2014年1月31日

【(軍曹!あの測量班の飯場です)】無線機が鳴った。

「(罠かもしれないぞ注意しろ! 障害物を取り除け!)」

【(了解!)】二人の兵士はジープから飛び降り容赦なく障害物を壊し始めた。

「(なにする!やめろ!)」そう叫びながら男が飛び出てきた。

男は測量班の炊事係りであった。

「(命令だ、先を急ぐ!)」

「(何て事するんだ!せっかく作った祭壇を!)」

アナジャス軍曹が、ジープを先行車の後ろまで進め、エンジンを切らずに降りた。

「オイ(炊事係じゃないか、どうした?)」

「(軍曹! 酷いじゃないか!)」

「(なに~、道の真中に障害物を置いてなんて事するんだ)」

「(障害物? これはミサの準備だ! お前達の牧師を待っていたんだ)」

「(俺達を?)」

「(あの『ブッダ』のミサだ)」炊事係の男が、車から降りた西谷を指しながら言った。

「(そうだったな、ここで『ブッダ』のミサを・・・)」

「(三十分で測量班が戻る。それまで待ってくれ、お願いだ)」

「(ニシ・タニサン、確かに、ミサをやってほしいと測量班の者が言っていました。私はいいですけれど、貴方達次第です)」

続いて降りてきた中嶋和尚に、

「彼等がミサをしてくれと言っています」

「私は出来る限りの事はしますが、兵隊さん達は問題ないですか?」

「彼等は私達次第だと言っています」

密林の中から、ポツリ、ポツリと人が現れた。よく見るとインディオの家族、白人や混血の家族が集まり始めた。

各々、見た事もない果物や花を持参していた。お供え物の様だ。

二十分後、測量班が七、八十人くらいの密林の住人を従えて戻って来た。祭壇の前に二百人ほどの人が集まった。子供や抱かれた赤ちゃんも含めると三百人以上に達するであろう。

「中嶋和尚、お願いします」

「西谷さん、今度は『南無阿弥陀仏』で行います」

「分かりました。それは浄土宗の念仏ですね?」手早く西谷は祭壇の前に工事現場の木箱で中嶋和尚の座を作った。

「(アナジャス軍曹、セニョール・ナカジマがトメアスと違うお祈りでミサを行うそうです)」

「(あれは熱気があって、圧倒されたが今度は、どう云うものですか?)」