「社会に開かれた日語教育を」=聖南西日本語教師研修会=(下)=学習優先度が徐々に低下=問われる方向性や使命

ニッケイ新聞 2014年2月15日

福澤一興会長の授業の様子

福澤一興会長の授業の様子

「教師合同研修会」の開催場所はサンパウロ州サンミゲル・アルカンジョ市のコロニア・ピニャール。14年ほど前、聖南西地区の日本語学校教師らが、日本語能力をはかるコロニア独自のテストを開発しようと集まったのがきっかけで始まったが、授業についてアイディアを出し合い、情報交換を行うなどするうちに、研修会として発展した。

ブラジル出身者や移住者が半数、残り半数はJICA派遣のボランティアたちで総勢約30人が参加した。JICAシニアボランティア日本語教師の金ヶ江洋子さん(58)による講義のほか、参加者が授業に関するアイディアを持ち寄ったワークショップ(共同作業)と、テーマ別分科懇談会などを行った。

同懇談会では「日本語教師の育成」「指導法」「保護者、文協とのコミュニケーション」「行事のあり方」などをテーマに話し合い、意見を出し合った。どの学校でも生徒減少とともに、学習者の日本語学習の優先度が低くなっていること、レベルの異なった生徒たちが集まり、一斉授業が成立しないなどの課題を抱えており、議論の多くはその対策に関するものだった。

ロンドリーナから講師兼参加者として出席した金ヶ江さんは、最近の生徒の傾向について、「日本語学校は、水泳や英会話などと同等かもしくはそれらより優先度は下で、月謝を払って送迎の手間をかけて日本語の勉強をさせるのは、熱心な家庭のみとの印象」と話す。生徒が少ない上、レベルが異なるために複式授業で、個人学習を補う程度で会話の授業ができないと語った。

日語教育は従来、個人宅などで子弟への日本語継承を目的に行われてきた経緯から、教師の高齢化と減少がすすみ、金銭的・時間的な理由で教育の質を高めるための研修等ができず、教育の質が低下し、生徒が減り、待遇が改善されないという悪循環が生まれているなどの意見も出された。

また「協力団体であるはずの文協からも経費削減等を求められ、厳しい状況におかれている」との意見にうなずく人が複数いた。グループの話合いでは悪循環を断ち切るためには「思い切って教師の給料を上げる」「学費をあげて質のよい授業をつくる」「成功した学校をモデルにする」「日本企業と連携する」などの意見が出た。

非日系や成人などが増えて学習者は多様化したが、教える側が目の前の事柄に追われ、解決策や方向性を見出せないままのようだ。聖南西教育研究会の福澤一興会長に尋ねると「現実的には日本語教育の方向性や、明確な使命感をもって携わっている人は少ないかも」という。

松原教授は「2015年は、当地で初めてできた日本語学校の設立から100周年と節目の年をむかえる。課題を抱える日本語教育に関して話し合い考え直す機会として催しも企画したい」と意気込んだ。(終り、宮ケ迫ナンシー理沙記者)