コラム 樹海

ニッケイ新聞 2014年2月26日

 金曜からサンパウロ市でカーニバルが始まる。90年代半ばまでは町の辻々にラジオをかけっ放しの店があり、道を歩いているだけでサンバ学校の人気曲が耳に残って、いつの間にかサビを覚えていた。本番1カ月前になるとテレビもカーニバル一色となり、一気に雰囲気を盛り上げていた▼90年代後半以降、特にBRICsと呼ばれ始めた頃からラジオを聞く機会が減り、テレビがカーニバルを扱う頻度が減った印象がある。古いサンバ学校ほど伝統や集団規律を参加者に求める傾向があり、豊かな中で育った青年はそれを古臭いと感じ、パゴッジやファンキ、外来のロック等の開放的な音楽に嗜好を変えた▼年初にショッピングセンターへファンキ愛好青年ら数千人が突然集うロレジーニョが話題となったが、かつてならサンバ学校が吸収していた青年層だ。サンバ人気の凋落と経済繁栄は反比例している気がする▼53年にリオで流行ったマルシャ(行進曲)には「早朝4時にゼ・マリアはお弁当をもって家を出て、列車の扉の外にぶら下がって町まで出る」という貧民窟住民の出勤風景を風刺的に描いた一節がある。それから61年も過ぎたが、通勤列車は同じように混雑している▼特に軍政時代は抗議行動が難しく、カーニバルで揶揄するという文化的な表現手段がとられた。かつてはマルシャでユーモラスに批判したが、表現が自由な現在はむしろ「W杯反対」などの直接的標語を掲げて抗議〃パレード〃をし、ブラック・ブロックはロックのように暴力的で、当地らしさがなくなった。グローバル時代ゆえに仕方ないのだろうが、最近の大衆表現の有り様はどこか味気ない。(深)