コラム 樹海

ニッケイ新聞 2014年3月15日

 この頃ご無沙汰だが、ニッケイ俳壇や投稿欄「ぷらっさ」の常連だった彭鄭美智さん(82、台湾)が昨年5月に上梓した『続・地の塩に』を頂いた。早速ページをめくると、エッセイ、短歌、俳句、川柳、旅行の写真など盛りだくさんの楽しい本だ。穏やかな人柄を偲ばせる優しい文章にひと時ひたった▼一週間に一度オデンを食べるなどユニークな健康法を紹介したあとで、「幸せ」という詩を載せている。「私は幸せ、八十になっても健康で働ける。私は楽しい―」と始まるのだが、美智さんの表情は暗い。経営するリベルダーデの東洋食品店を現在閉めているのだ。「今までの人生のなかで一番辛いです」とため息をつく▼訳を聞くと、長年働いていた日系二世の女性に訴えられ、莫大な支払いを命じられているのだという。「ちゃんと登録するから」という美智さんの申し出を断り続けることを訝りながらも、正社員同様しっかり支払いもし、賄いも出していたという。「よくしてあげたと思っていんだけど…計画的だったんでしょ」。頼まれて息子や妹も雇っていたというのだから、何ともやり切れない▼命令の22万レが12万レになったものの、「野菜や豆腐を売って、どうしてそんな大金が払えますか」。14歳で終戦を迎えるまで〃日本人〃だった美智さんにとって何とも複雑な思いだろう。日系食品店多くあれど童謡が流れる何故か懐かしい気にさせる店だった。コロニアを代表する一軒といってもいい。「家族が解決してくれると言っている。また開けますよ」と眦を決する美智さん。再開と、見慣れたカウンターでの笑顔を待ちたい。(剛)