連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(126)

ニッケイ新聞 2014年3月28日

二十分後、ジョージが戻ってきた。

「思った通り、奴は観光ビザで、すでに二ヶ月以上の不法滞在だ」

「それで彼を留置所にブチ込めますか?」

「検事次第だ。友人のアレイショスに電話しよう」

「アマゾンの? あの凄くウンの強い副司令官ですね」

「中嶋さん、その方を知っているのですか?」

「ええ、トメアスに先駆者の供養に行った時、ベレンの空港で出迎えて下さったジョージさんの友人で、あの地方の副司令官です」

ジョージは携帯でアレイショスに電話した。

「(ウエムラだ。元気か?)」

【(元気だ。平和すぎてちょっと太ったかな)】

「(この前のトメアスの件、日本人達が喜んでたぞ。礼を言う)」

【(それはよかった。ウイスキーありがとう。で、用件は?)】

「(不法滞在の日本人を逮捕し、サンパウロの留置所にブチ込んでもらいたい。外国人となると連邦警察の管轄だから、それでお前に)」

【(不法滞在で逮捕したい? それは無理だ。不法滞在者は百万といる。だから、構っちゃいられない。それに、十年に一度は大統領が特別赦免して市民権を与え解決してくれるしな)】

「(この外国人は特別だ、強姦と殺人容疑だ)」

【(殺人はいいが強姦は留置所内でリンチされるだろ。扱い難いぞ。それで逮捕状は?)】

「(無いから不法滞在者として逮捕状を出してもらい)」

【(目的は?)】

「(仇打ちだ)」

【(お前らしくないな。誰に頼まれた?)】

「(強姦され、殺された女からだ)」

【(死人から?)】

「(話すと長くなる、俺を信じてくれ)」

【(分かった。ブッ込んで、お前が納得いくようにしろ。同期のモンテイロ・アキラ署長に頼でおく)】

「(モジ・ダス・クルーゼスの警部?)」

【(知っているのか?)】

「〈MST〈農地改革運動組織〉が絡んだ事件で知り合ったんだ)」

【(そうか。じゃー、モンテイロからお前に電話させるから、待っていろ)】

「(待つのはいやだ)」

【(相変わらずせっかちだな。電話しておくから、モンテイロを訪ねろ)】

第二十四章 逮捕

翌日の午前、モジ・ダス・クルーゼスの署長室で、

「(ウエムラ刑事、久しぶりですね)」

「(署長就任、おめでとう)」

「(あのMSTメンバーの不法侵入事件が丸く治まった事で、特にマスコミ関係をうまくコントロールできたのが高く評価され、署長になりました。あの時の指導有難うございました)」

「(ベレンのアレイショスから電話があっただろう?)」

「(はい、その件で先月配属されたこの二人のピオン(しんまい)をウエムラ刑事にあずけます。彼等の規則で縛られ、なにも出来ない頭を少しほぐして下さい。目的の逮捕状の発行要領は教えましたから大丈夫です。私は誘拐事件のアジトに、これから出動しなくてはなりません」

「(急襲するんだ。誘拐犯は知能犯だ、考えるチャンスを与えると負だ)」

「(分かりました。重装備で一気に突入します)」

モンテイロ・アキラ署長は『帝釈天』の様に防弾チョッキをシャツの下に着用した六人の私服刑事と、二台の古い盗難車を利用して現場に向かった。

ガランとなった警察署に二人の新米刑事が残った。

「(ペドロです)」中背の若い男と、

「(アレマンです。よろしく)」大男で金髪の男が挨拶した。