コラム 樹海

ニッケイ新聞 2014年4月3日

 領土や歴史問題を巡り、日本と周辺諸国、在日外国人の間で不協和音が高まっている。先月末に本紙で紹介した川目武彦弁護士はそうした状況を危惧し、昨年、群馬県大泉町にポ語通訳を置いた法律事務所を開設した。様々なサービスから疎外されがちな在日外国人に「社会に溶け込んでもらいたい」との思いが根底にはある▼ブラジル人の訪日就労が始まって約30年、その高齢化すら問題視される時代になった。にも関わらず、今も日本政府は少子高齢化対策として「移民導入の検討」を掲げ、肝心の受入れ体制は一向に整っていない印象だ▼本来は政府が果たすべき役割を、現実では川目さんのような民間の有志が補完しているようだ。しかも「ある程度の経験と若さがある今だからやれる。赤字の覚悟で踏み込むと決めた」というから頭が下がる▼一方、積年の問題である不就学児童に関しては、静岡が今年から浜松市をモデルとして不就学ゼロを目指すと発表した(27付の中日新聞)。同市は住民基本台帳と学校の在籍情報を連動させて不就学者をあぶりだし、3年かけて全戸訪問しながら不就学をゼロにしたとか。この前進に、同様の問題を抱える自治体は鼓舞されたに違いない▼新興国から日本のような言語や文化の独自性が高い国への移住は、水を低所から高所へ流すようなもので、水をくみ上げる力、つまり強力な支援が必要だ。同記事掲載後、幸い川目さんの下には当地からの協力の申し出が何件かあったという。赤字リスクを犯してポ語法律相談の草分けとなった同氏の取り組みを、個人の頑張りで終わらせるのではなく、一つのモデルとして全国に広めてほしい。(阿)