連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(132)

ニッケイ新聞 2014年4月8日

「なんで困るんですか? それに、なんで面倒くさい手続きを・・・、日本人同士もっと、シンプルに事を運びましょうよ」

【シンプルに? 君は二世だろう。日本人同士とは言えないじゃないか】

「分かりました。では、どうすれば・・・」

【ちゃんとした手続きを踏んでもらうしかないだろう】

「どう云う手続きをすれば?」

【だから、ちゃんとした・・・】

「困ったなー、彼の命にかかわるかもしれませんけど、残念だな」

【ちょ、ちょっと待て、なんで命にかかわるのだ? まっ、日本人が絡んでいるとなると、領事館として見逃す訳には・・・、一度、君と会ってやってもいいが】

「お会いしますか。では、国際カンシュウとやらの手順でお願いします」

【なんだ? それ、どう云う意味だ? こちらは、直ぐに会いたいのだ】

「ブラジル外務省を通して正式に申し込んでいただけませんか。外務省から許可が出れば直ぐお会いします」

【バカ言うな。人の命がかかっているんだぞ!】

「仕方がありません。ブラジルの慣習は相手国の慣習と全く同じにして対等な外交をします。だから、日本と同じ対応です。残念です」

【だから、そこをなんとかして・・・】

「では、領事館もモリグチ氏の情報をなんとかして下さい」

【ちょっと待ってくれ・・・、領事館には森口卓彦に関しての情報は・・・、ブラジル連邦警察の外国人入国リストに記載されていた】

「それで、モリグチ氏は日本でなにをしたのですか?」

【いや、別に】

「なにもない? なにか情報を隠していませんか? もし、後で、問題が起きれば外務省を通じて日本大使館に抗議を入れます。それでいいですね」

【なんだ!その態度は、俺を脅すつもりか!】

「脅そうなんて・・・、どうも、エンドウさんとは上手く話が出来ませんね」

【君! 君はブラジル人とは違う日系人だぞ、だから日本人らしく日本領事館に協力するのが当り前じゃないか】

「当り前? 日本政府は都合のいい時だけ二世や三世を日本人扱いするんですか? それに、日本人の顔して日本語を話さないのは可笑しい、恥ずかしい、日本文化を大切にしろ。なんて、口先で言いながらも、法的には外地で生まれた我々は日本人ではないと差別し、見放すんですから、ふざけた国ですよ」

【ふざけた国だと! 日本をバカにするな! お前こそふざけた事を言うじゃないか。法律によれば『生後三十日以内に親が領事館に届けておれば日本国籍は保証される』となっているがね。お前、知らないのか!?】

「それは、親次第で決まる事でしょう! 俺達二世や三世の自己の意思は完全に無視されているじゃないですか。私の親も含めて日本人一世は、二世、三世を少しも尊重していませんよ」

【それは法務省の問題だ。それに君を差別したおぼえはないがね】

「国際法を持ち出してまで断固としてブラジル人扱いされたし、一方では、俺達二世はブラジル人とは違う日系人だ。とも言ったじゃないですか。俺達はいったい何者なんでしょうか?」

【そう云う訳では・・・】

「ちゃんとした情報をくださるなら電話して下さい。では、失礼」

【待て! 君の電話番号をくれ】

「文章で正式に電話番号を要請して下さい」

【とぼけた事言うな! 日本領事館をなんだと思っている!】

「税金を一銭も払わないで全てが保証された一等地にある建物で、我々二世には日本ビザを取得する意外は全く関係ない所です」