コラム 樹海

ニッケイ新聞 2014年4月12日

 レストランの日本食を食べて、何故こんなに不味く作れるのだろう? と感心することがほとんどだ。技術的な問題というよりも、要は本物を知らないのではないか。作り方は知らずとも、見て食べてこれは違うと分かることが肝要だと思う▼日本の五つ星ホテルの日本人料理人が市内ホテルのイベントで腕を振るうと知り、早速行くことにした。調味料はすべて日本から持参、「本場の味を知ってほしい」と鼻息が荒いと本紙記者から聞き、心が躍った。110レアル。日本なら高級料亭の昼御前が食べられる。ただ、ここはブラジル、3倍と考えてよしとした。ブッフェ形式で、酢の物や寿司、てんぷら、照り焼きなどの定番が並んでいる。ブラジル人も知る味で違いを知ってもらおうという自信を伺わせた▼握り寿司を食べると何故か餅が入っている。何だろうと思ったら、握り固めたご飯だった。それも酢の味がしない。シャリを半分残し、てんぷらに箸を進めると油で滑った。胃が悪くなりそうだったので、やめておいた。ほかの物も驚くような違いを感じない。締めに麺類を食べようと思い、ふやけたクズきりの入った鍋を一瞥し、小鉢のラーメンを食べようかと思ったら、隣に「さぬきうどんのつゆ」。どうすればいいのか戸惑った▼正直、これなら値段が5分の1のリベルダーデのポルキロで十分だ。何が問題なのだろうか。本場の味に衝撃を覚えたブラジル人はいたのだろうかと思うと同時に、コラム子の舌がおかしくなっているのかとの疑問も沸いた。調理人は「サンパウロに本当の和食店は5軒ほど」と話してようだが、その五軒に入るかどうかは箸も筆もおきたい。(剛)