連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(142)

ニッケイ新聞 2014年4月24日

「もう少しこの世で手伝っていけば?」
小川羅衆はもったいぶった顔で、
《俗人がそこまで助けを乞うんなら、もう少しいてやってもいいが・・・》
そこに、アレマンが女と現れた。
「(ウエムラ刑事、奥の東洋人、逃げないでしょうか?)」
「(監視は続けているんだろうな?君達が・・・)」
アレマンは女を引き寄せ、
「(ですが・・・)」
ポルトガル語が解らない小川羅衆が、
《なにか問題が?》
「森口が逃げないか心配しているんだ」
《監禁すればいいじゃねーか》
「どうやって?」
《簡単でぇ。この種の商売の個室は正に独房だ、だから、鍵を壊せば出られねーだろう。昔使った手だ。そうすれば我々も楽しめるってもんだ》
「(アレマン、頼みがある)」
「(なんでしょうか?)」
ジョージはアレマンに耳打ちし、
アレマンは親指を立てて『OK』のサインをして女と奥に入り、森口が潜んだ個室の鍵穴に自分の鍵を差し込み、バカ力で壊した。
「(鍵が傷んでいる)」と、鍵を交換するとアレマンは女と消えた。
ジョージが、片隅で一人カクテルを飲んでいる女を目で指し、
「俺達も楽しもうじゃないか」
その女を見た小川羅衆は眼を丸くして、
《うおっ! ・・・。しかし、幽霊みたいなあっしにはどうしようもねーな》
「なんとかしよう」
ジョージは、的にした女に、
「(おい!)」
鼻の高い女は目をチラッと向けただけで返事もしなかった。
「(なんだ、冷え切って、可哀そうに)」
同情されて怒った女が、
「(ふん)」女は、強気で、そっぽを向いてジョージを無視しようとした。
「(このサロンで興味引くのはお前だけだ)」
粘るジョージに興味を持ったが、ジョージの様な男に騙され続けてきたこの種の女はこんな簡単な手に乗ってこなかった。
「(ふん、古い手口)」
ボリュームある別の女がジョージの気を煽るような仕草で前を通った。ジョージはその女の尻を視線で追いながらも、カクテルを手にした女に、
「(やっぱりお前だ)」
「(あの子、安いわよ。百ドルで落ちるわ)」
「(お前は?)
「(五百ドルよ)」女は顔で『貴方には無理でしょう』と言った。
「(五百ドルか・・・、お前なら、そうだろうな・・・)」 ジョージは不覚にも溜息をついてしまった。
しかし、ケチらないジョージに女は興味を持った。
「(いくらあるの?)」
「(今日はあきらめるか、・・・)」
心配そうに小川羅衆が、
《情事さん!、大丈夫か?》
「金じゃなく、男に飢えた女だったらな」
《ちょっと、てめーが悪さしてみようじゃねーか》
小川羅衆が女のうなじを撫ぜた。
「(う~うん、?、貴方と話しているだけで・・・、なぜかへんな気持ちに・・・)」
ジョージは逃げの作戦をとった。
「(残念だなー)」
「(そんな事ないわ、女は男次第よ)」
「(男も女次第だ)」
《もっと悪さしてみよう》小川羅衆はドレスの上から悪さした。
「(ね~、私、変に・・・、我慢できなくなったわ)」
小川羅衆の悪戯で情気した女はジョージに身を投げてきた。
《悪さが度を越したみてーだ》
女からジョージを個室に招いた。