連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(143)

ニッケイ新聞 2014年4月25日

 ジョージは愛撫と同時に女のドレスを巧みに剥いだ。
「小川羅衆からお先に」
《てめーから? あっしは幽霊だ、如何しようもねーじゃねーか》
「俺に呪い移ればいい」
《そう云う手が、こんな事、二百年ぶりでー》と言って小川羅衆はジョージに呪い移った。
それと同時に、ジョージの男性が大きく撥ねた。
女はそれを誘え入れようとしたが無理であった。
《情事さんからやってくれ、てめーの干渉をなくせば上手くいくだろう》
「じゃー、お先に・・・」
「(なに、ぶつぶつ言っているの?)」
「(おまじないで、大きさを調整するんだ)」
小川羅衆がジョージの身体から抜け出した。
「(まぁー、自由に調整できるのね)」元のサイズに戻った男性を女性が迎え入れた。それから二人は狂った。
十分後、
「小川羅衆の番だ」
《いいのか? じゃー、ごめんよ》小川羅衆は遠慮がてらにジョージの身体に再び呪い移った。
「(又?! 凄~い)」女は喜んで、後ろを向いた。
それから十五分後、女は気絶してしまった。
《失礼した。う~ん、テメーの人生でこれは最高だ》
「人生じゃないだろう?」
《この世に未練を残すのはご法度だが、この世を去るのはつれーなー》
第二十八章 追跡

「この世に居座る事は出来ないのか?」
《輪廻転生でこの世に戻る事は出来るが、奉行所勤務時代の悪行が祟って『人間道』よりも一段下の『修羅道』へ格下されちまって、だから、それを巻き返そうと頑張っているところよ》
「俺もその『シュラドウ』に行くだろうな」
《よーく考えてみりゃー、その方がいっかも知れねーぞ。今の『人間道』は『修羅道』よりもひでぇ~世の中になっている。それで、てめーもお地蔵さまに頼んで、今の『人間道』より平和な冥界に留まっているのさ。さて、今週と来週のビジネスクラスは満員だから、オバーブッコで迷惑しないように再来週のJAN便までブロジルに居よう》
「再来週のJAN便で?! お化けも天使も雲で飛び回るんだろう? どうしてJAN便なんだ?それも贅沢にビジネスクラスで・・・」
《仏界よりも、人間の科学力の方があらゆる分野で上回ってしまって・・・あの蛇(ジャ)ット飛行機は速度では劣るが、安全性と乗り心地では仏界の『運任雲(うんにんくも)』の一千倍だと先輩の羅衆が言っていた。特に機内でサルビスされるお供え物は格別だ》
「あの不思議なオーバーブックの原因はお前達の仕業なんだな」
《オバーブッコの件は勘弁してくれ》
「あれで、日本を代表する航空会社がつぶれそうなんだぞ。羅衆とは酷い事をする幽霊なんだな」
《勘弁してくれ》
「『ウンニグモ』ってなんだ?」
《『運任雲』とは字の如く『運ぶ任を負った雲』なんだが、事故ばかり起して、仏界では『運任せの雲』と批判され、仏さん達から嫌われているんだ》
「あらゆる分野で人間が上回ったとは?」
《イツでも、ドコでも、ダレとでも、ウソでも正確に交信できる携帯電話ってものは便利なものよ! この超高速、超大容量で超遠距離通信可能の通信方式は仏界の神技通信網の霊信方式の百万倍の性能だそうだ。森口を発見したのも、ある教団の電子メーロってやつを先輩が監視していたからだ。その情報を基に中嶋和尚や古川記者を追っていると、ジョージ;情事と再会し、森口を監獄で発見し、それからずっと追跡していたんだ》
「そして、あのタクシーに・・・」
《それを、お前さんに再発見されたってわけだ》