連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(145)

小川羅衆より百年以上ベテランの村山羅衆が、
《これは、めったにない霊象で、ジョージ殿の脳波と我々の霊波が合ったのであろう。昔は大きなズレでも調整出来たが、今の俗界にはロジオ、テロビ、最近になって携帯通話器なる厄介な物が氾濫し、いろんな波が飛び交い、霊波と混信しおって、それに、下手に調整しようとすれば薄類野愚裸火(ポルノグラヒー)と云う興味深い画像まで現れてくる始末だ》
《ジョージは元メアカシですから、めあかしだったあっしと合った波を持っているのでしょう》
《ジョージ殿はたくさんの時代劇映画を見ておられたので我々の意目事(イメージ)を豊かに想像する事が出来たのじゃ。こんな好条件が揃ったお方は滅多に居られぬ。我々にとって貴重なお方だ》
《ジョージ、村山羅衆は霊界でも指折りの有識者なんだ》
「インテリ幽霊なんて、いい加減にしてくれ! それに、俺が幽霊とピッタリだなんてやめてくれ! 悪いが、森口を一人で・・・」
《地蔵さんが、我々も協力しろと・・・、是非、ご一緒させてくれぬか》
「協力はいいが、足手まといにならないように、それに、サムライ時代の言葉はやめてくれ」
《現代の人間社会のリズム;律跳にはかなわぬが、なんとかしましょうぞ》
個室の中では、外の重厚で上品な造りに比べると、極端に下品な内装と派手な色合いの照明、それに照らし出された安っぽいベッド、その影響で下品に見える半裸の女が、
「(早くドアを開けてよ!)」
「うるせえ! 黙れ!この~」言葉は分からないが、嫌悪な様相で怒鳴った森口に恐れを感じ女は黙りこんだ。
小川、村山羅衆は
《じゃー、拙者等は》壊れた鍵穴から森口の部屋へ侵入した。
「(アレマン! ドアをぶっ壊せ)」
ジョージの指示でアレマンはドアから一歩さがると、勢いをつけてドアを蹴った。
『バッーン』見かけだけの粗雑な急工事を象徴してドアは枠ごとふっ飛んだ。中の森口もドアと一緒に突き飛ばされ、倒れながらも枕の下の拳銃を掴み、咄嗟に半裸の女を左手で引き寄せた。
「変な真似すると女を殺すぞ。前を開けろ!」
「そんなカスはどうでもいい、手を上げて出てくるんだ」
「前を開けろ!そうしないとこの女を撃ち殺すぞ!」
《観念しろ、出てこねーか》
突如、森口は怯まないジョージめがけて女を突き放し、乱射しながら飛び出した。
ジョージは得意の三連発を発射しようとしたが、小川羅衆が前にいる事で躊躇してしまった。
新米刑事のアレマンとペドロは身を丸く縮めるのが精一杯であった。
森口はそのまま廊下を突破、玄関口に出た。丁度入ってきた車の運転席に向かって二発撃ち込むと、血に染まった男が転げ落ちた。その車を奪いタイヤを鳴らして急発進した。
ジョージも次に入って来た車に銃を向け、その車を奪って二十メートル遅れて後を追った。
続いて、ジョージの愛車に飛び乗ったアレマンとペドロはブレーキランプを激しく点滅しながら走るジョージ運転の車を追跡したが、途中で見失ってしまった。
ジョージ運転の車が突然止まった。
助手席にいつの間にか乗り込んでいた村山羅衆が、
《おぬし、どうしたのじゃ?》
「盗難通知を受けた保険会社がGPS指令でエンジンを切ったようだ」
ジョージは中央車線に止まった車を放置して中央歩道に降り、携帯で、
「(アレマン! コンジュント・ナショナル・ビル前の中央分離帯で待っている)」そう言った時、渋滞の十台ほど後ろの車のライトが二回点滅した。アレマンが運転するジョージの車であった。
車が目の前に来ると、ジョージはアレマンが譲った運転席に飛び乗った。