連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(165)

「私の力不足です」
 中嶋和尚は生き仏になろうと決心した、その時、精霊の群れが二つに分かれ、その間から、成仏を断ったあの霊獣化していたトメアスの先駆者達が、上半身裸のリーダーを先頭に現れた。
《中嶋和尚! 我々を直ぐ成仏させ戦いに参加させて下さい。霊獣化した我々は一人で成仏出来ないのだ。助けてくれ、お願いだ》
 考えた中嶋和尚が、
「そうだ! 貴方達を成仏させるには『他力本願』の方法があります。それは、屈強な親鸞が説く『歎異抄』(たんにしょう)の中の『悪人正機説』(あくにんしょうきせつ)の教えです。ですから、貴方達の強い信心に他力の『阿弥陀仏』本願が加われば成仏出来ると思います。それでは早速念仏を一緒に! 『南無阿弥陀仏』、『南無阿弥陀仏』」
 コラボレーションで、間髪を入れず黒澤和尚も、
「『南無阿弥陀仏』、『南無阿弥陀仏』、『南無阿弥陀仏』・・・『南無阿弥陀仏』」
《ナーム・アーミ・ダーブツ、ナーム・アーミ・ダーブツ、・・・、ナーム・アーミ・ダーブツ》本堂の全員も加わった。
 中嶋和尚の思惑と通り、驚くほど早く、霊獣化していた先駆者達は成仏していった。
「彼らはアマゾンでインディオと同じ経験を積んだ妖怪同然の方々です。きっと、力強い助っ人になります」
 その真新しい成仏の男達を中心に宮城県人会を通して誘われた県連(都道府県人会連盟)の志願霊も現れ『ブラジル日系野戦羅衆団』が編成され、総勢三千に達っした。
《お願いだ、我々を戦場へ!》
 黒澤和尚の『神足通』の術で、ジョージ達がいる過去空間に向け、『觔斗雲』でピストン輸送が始まった。
 古川記者が実況放送を再開した。
「『ブラジル日系野戦羅衆団』の勇壮な先鋭隊が到着し始めました。彼等の中にはなんとかインディオと会話できる方もいるようです。インディオ達に混ざりました。ああっ! 森口が野戦羅衆の先鋭隊の一人を捕まえ・・・」
《捕まえて、如何した?》目が見えない年寄りの精霊が問うた。
「悪霊の中に投げ入れました。悪霊が寄って集って・・・、あっ、精鋭隊の七人が助けに突入しました。うぉ~、 助け出しました!」
 古川記者の熱のこもった生放送が続いた。
「インディオとの共同作戦に効果が出ているようですが、何かが足らない様です。まだ悪霊の数も増え続けています」
《こちらジョージだ! 優しすぎるインディオ達が邪魔だ》
 古川記者の職業柄の解説で、
「インディオ達は百年前の過去型複合現在形の状態です。それと、ジョージも未来型複合過去形だから使い物になりません」
《もっと分り易い言葉で説明してくれ》
 古川記者は雑学で満杯の頭をかきながら、
「過去の複合現在分詞の『なってしまっていたのに形』の古臭いインディオと云う意味だ。ジョージの複合過去未来は『なっていてもよかったのに形』なので責任感がない状態だ」訳の分からない解説で皆を煙に巻いた。
《中嶋さん、この古臭~土人達をどうにかしてもらえねーか。餌になって悪霊達を増やしているんだ》 
 中嶋和尚は密教の祈りに集中している黒澤和尚に、
「古川記者が言う様に、過去のジャングルでは霊力を持っていない現在形のインディオの立場ですから、彼等を我々の現在へ呼び寄せれば過去に死んでいた霊になります。それを仏教に帰依させ、更に羅衆にして、それから過去に戻せば?」
「中嶋和尚のおっしゃる通りですが、大変な作業です」