ならず者と言わないで

 「日本よ、僕らブラジル人はならず者ではない」。静岡県浜松在住のロドリゴ・ゴンサルヴェスさんは、母国の暴力的な面を強調する日本メディアへの抗議として、この一文を紙に書いて掲げた自分の写真を自らのフェイスブックに投稿した▼彼の主張は「ブラジルの良い面も同じくらい報道してほしい。日本人だって犯罪を犯すじゃないか」というものだ。W杯で当地に関する報道が増えたのはいいが、その大半が犯罪、デモのオンパレードだ▼難しいのはそれが実際に起きている点にある。社会問題への注意を喚起し、それによって事態の改善や意識の改革を促すのも「ニュース」の役割の一つ。W杯に関しても同様で、「事実だから仕方がない」部分もあるが、母国の報道とあっては、彼が抗議したくなるもの無理はない▼読者が体験していない現実を、取材者が「ニュース」として切り取って伝える。だからそれに関する判断も印象も報道内容に依存する。読んだ側はそれで何かを知った気になるが、現実を肌で知る者からすると天と地の開きがある場合もある▼あまりに報道の姿勢が「ブラジル=危険」図式に固定化されているとすれば画一的すぎるだろう。実際危険かと聞かれたら否定はできないが、ブラジルが嫌いかと聞かれたら憎めないと答える。それが住む人間の「皮膚感覚」だ▼偏見やイメージは一種の催眠のようなもので、人間は「あの人怖いよね」と言われ続けると、余計にそうした行動を取ってしまう。その意味で、報道は未来に影響を与える。画一的な報道で苦しむ在日ブラジル人がいることを、日本のメディア関係者は心にとめて置いてほしい。(阿)