「玉手箱のような国」

 日本から持ち込んだカップラーメンは帰国までに食べきれそうにない。肉の塊を炭火で焼いた「シュラスコ」や、芋の粉を焼いたチーズパン「ポン・デ・ケージョ」、サトウキビの絞り汁で作る伝統のカクテル「カイピリーニャ」…。ブラジリアンフードはどれも安くておいしい。
 日本食が恋しくなっても、サンパウロなら日系人の経営する店も多く、困らない。カツカレーが2千円と値は張ったが、日本と変わらない味に感激した。
 15歳まで島田市金谷で育ったパティシエ伊沢彩子さんに出合い、取材に対し「この国は玉手箱のよう」と語ってくれたのが印象的だった。日系社会のおかげで日本食材のほとんどは手に入る。加えてアマゾン川流域などにはブラジル人も知らない食材があふれているという。きっと埋もれているのは食材だけではないだろう。
 ベテラン記者たちが「これほど移動が大変な大会はなかった」と口をそろえるW杯もついに終わった。約1カ月前にサンパウロに着いて以降、計11便の飛行機を乗り継いで7都市を巡った。これまでの移動距離はざっと1万5000キロに及ぶ。さまざまに表情を変える景色を飛行機の窓から眺めては、この国の潜在能力の高さに思いをいたす日々だ。(サンパウロ=静岡新聞特派員・南部明宏)