伝統の『海外日系人』誌廃刊=経費削減で37年の歴史に幕=今後ウェブ展開に比重置く=「知る機会を増やしたい」

 世界の日系人と母国を結ぶ公益財団法人「海外日系人協会」(田中克之理事長)=神奈川県横浜市=が発行する季刊誌『海外日系人』が、今年3月号(74号)をもって廃刊となった。移住者・日系人に関する相互理解を目指して1977年に創刊され、年に2回各号約4千部を発行してきた(編集=海外日系新聞放送協会、800円)。しかし協会の財政状況は芳しくなく、IT化の時代にあってインターネット上での発信に比重を置く必要が出てきたことも重なり、廃刊に至った。今後、紙媒体は『海外日系人』誌と「海外日系人協会だより―Nikkei Network―」を統合、ウェブによる情報発信等の拡充を目指すという。

 世界に推定約260万人の日系人が居住する中で、同協会はグローバル化社会における海外日系人の存在を「日本の資産」と捉え、基幹事業である「海外日系人大会」の開催をはじめ、在日日系人支援、研修生の受け入れと奨学制度、日語教育支援、海外移住資料館の運営などの事業を推進し、両者の架け橋として活動してきた。
 同協会にメールで問い合わせたところ、事務局次長・総務部長の土方陽美(ひじかた・はるみ)さんから、「主な収入源はJICA受託事業だが、現在はすべての事業に入札が導入され、落札するためには価格を抑えなければならない。近年、JICA事業の収益率は目に見えて落ちている。協会としても人員減・職員の給与カットなど努力を重ねているが、受託収益のマイナス幅に追いつけない」との状況説明があった。
 これまでも、紙媒体の広報を減らすことで支出減を図ってきた。1967年に創刊した「移住家族」新聞、「日系人ニュース」(旧名称=相談センターニュース)は共に2009年に廃刊、残る紙媒体は、地方自治体の外国人相談窓口や関連団体等に無料で配布されている「Nikkei Network ―海外日系人協会だより―」(年4回)のみとなった。
 今回のサッカーW杯が日系人の存在を知らせる機会になったとはいえ、「学校教育の中で移民史についてきちんと取り上げるなど、『知る』機会をもっと増やすことが重要」と土方さんは強調し、今後も「日系社会の存在・現状について情報発信することによって、日系社会に対する関心を高め、永続させる」ことが課題であると述べた。