樹海

 安倍首相夫妻は文協大講堂を埋めた全員と異例の記念撮影をした。その撮影データは文協に残されたので、希望者は同事務局で手に入る。いろいろな著名人来伯を取材したが、こんな場面は初めて見た。首相夫妻と一緒に収まった写真を得たことで、本人だけでなく子々孫々にも記念すべき日となった▼記者会見で首相は「日系人が培ってきたそれぞれの国や日本との信頼関係を土台として、ともに発展・啓発していくことができると確信している」と語ったが、夫妻のサンパウロ市日程はまさに日系社会に重点を置いたものだった▼日本の選挙権もない二、三世が多く混じる文協大講堂の全員と、約20人ずつ記念撮影する姿を見ながら、日系人との信頼関係を写真に定着させようとする行為だと感じた▼首相が会見で「地域で頑張っている中堅・中小企業の活躍の舞台を、世界へと広げるのを支援していきたい」と語ったのを聞き、県連日本祭りこそが絶好の舞台だと膝を叩いた。日本の地方物産や文化を当地で広く紹介できる場は他にない。「地方から直接に世界へ」という動きを国が支援するのであれば、日本祭りは間違いなく最高の受け皿だ▼首相夫妻は朝一番で日本館に立ち寄りパウ・ブラジルを植樹した。著名人は普通、儀式的にスコップ2、3杯の土をかけてお終いだが、夫妻は10数杯もかけて背で土を叩いた上で『水はないのか』と持ってこさせ、ジョウロの水を最後までかけたとか▼その場面を見た文協職員は「夫妻はその木をなでるように触り『大きくなれよ』と声をかけている感じでした」という。日系という土台に植えられた日伯友好の木から、大輪の花が咲くのはいつ頃か。(深)