特別な上訴の裏にあるものは

 日本政府が要請した3件目の国外犯処罰(代理処罰)は、まだ終わらない。二審で時効判決が出たパトリシア・フジモト被告に対し、判決を不服として州高等裁が上告した(7面に詳細)。身柄引き渡しを求めていた遺族は事故4年後の2009年に代理処罰申請し、翌年に当地で起訴された。2013年8月に一審判決で禁錮2年2カ月の有罪判決が出て検察、被告側ともに控訴、今年4月に二審で「時効成立」との判決が出ていた。これで結審かと思っていたら上訴へ…▼検察局長への取材ができないため、今回の上訴が何を求めているのかは不明だが、連邦司法高等裁判所が受理するかどうかで今後の展開が変わる。この上訴までにも、検察は時効判決に対し、判決の再審査を求める異議申し立て(Embargo de Declara-cao)をしたが、それすらも却下されていた。二審判決とほぼ同じ内容の判決文だった▼時効とはいえ「有罪」判決だった。「罪」はあるが「罰」はないという司法判断は、日本人の〃常識〃としては理解しにくいらしい。時効判決に納得のいかない遺族は、地元静岡県議に相談を持ちかけ、東京に出向いて駐日ブラジル大使に手紙を託したという。その結末がこの上訴のように見える。ならば、司法への行政の介入を認めていいものか▼「ブラジルの刑法が甘い」というのは当地の連邦議員も言っている。夜は刑務所で寝るだけで、昼間は外で仕事や遊ぶことを認める〃罰〃のあり方には違和感がある。まして日本の被害者となれば、この現状は「逃げ得」だと憤りたくもなる▼その「逃げ得」感を生む量刑差が、政府レベルの取り組みで解決できないものか。(詩)