〃血縁〃としての日系人

 2年前から世話になっている歯医者、三世のエイジさんとの間で日系の血について話が弾む。「日本人だからって差別されたことは一度もないので、ありがたい」というと、彼も「いつも『勤勉で正直で、社会の見本だ』と褒められる。日系人だということ自体が〃パスポート〃のようなもので、どこでも歓迎される」と相槌を打つ。そして「先祖に感謝してこの印象を後世に伝えないと」という結論にたどり着く▼彼も〃超〃がつくほどの勤勉で、毎日朝7時から夜は10時頃まで患者を診察した上で、週1回はUSPで講義、大学院に通って最新技術を学ぶのにも余念がない。どんなに多忙でも穏やかで笑顔を絶やさない。当地で出会った中で最も尊敬すべき人物の一人だ▼コラム子は来伯してわずか4年だが、日系社会の恩を随分受けた。最初は新来日本人のご多聞にもれず、「ブラジルにいるのだから日系社会には関わるまい」と思っていた。しかし、まだ右も左も分からなかった頃、リベルダーデの就職斡旋会社を紹介してくれたのも日系人、面識もないのに「私のパパイヤ農園で働く?」と声をかけてくれたのも日系人だった。単一民族社会の日本にいたら一生分からなかっただろう日系人との血の繋がりを、少しずつ実感している▼日本の日本人の多くは、在日日系人を〃血縁〃とは考えていないようだ。しかし、こうした縁が、どれだけ海外在住の日本人や進出企業に恩恵を与えていることか。日本もグローバル化や海外進出を推し進めるなら、世界の日系社会への認識を改めるべきだろう。まずは目の前にいる在日日系人たちをどう受け入れるか―それがスタートだろう。(阿)