次期経済舵取り人勢ぞろい=どうなる今後のブラジル経済=駒形 秀雄

レビィ次期財相、トンビニ中銀総裁、バルボーザ次期企画相(Fotomontagem - GERJ, Agência Câmara, PR)

レビィ次期財相、トンビニ中銀総裁、バルボーザ次期企画相(Fotomontagem – GERJ, Agência Câmara, PR)

 全国民が参加した選挙をへて、新年1月からジウマ大統領による新内閣が発足します。どの内閣でもその経済政策、運営がどうなるか、国民の注目を集めるところですが、この11月27日、新しい経済閣僚の〃おひろめ〃があり、その考え方などがマスコミを通じて紹介されました。紹介されたのは財務大臣=ジョアキン・レヴィ、企画(予算)大臣=ネルソン・バルボーザ、中央銀行総裁=アレシャンドレ・トンビニの3人です。今度の新経済運営トップは、どの様な考えを持った人達なのでしょう? 又、今後どの様にしてこの国の経済を仕切っていくのでしょうか? 私達の日々の生活に深くかかわることでもあり、以下、みなさまにその判断の材料をお届したいと思います。

 次期経済トップはどんな人?

▼財務大臣=ジョアキン・レヴィ(JOAQUIM LEVY)。リオ出身、53歳、リオ連邦大学工学、経済学部卒、米国シカゴ大学院卒、経済大学教授、92年IMF(国際通貨基金)、IDB(米州開発銀行)、などの役員。2000年財務省、企画省、国庫要職。2007年リオ州財務長官、2010年ブラデスコ系列社専務。財務省主税局長時代は冗費カットに厳しく(M’AO DE TESOURA=ミスター カット)と言われた。仕事ぶりは猛烈で昼夜ブッ通し、仕事場のソファーで仮眠の勤務をし、そのため、昼夜分担の3人の秘書を置いた。周りを引き回す実行力とあわせ(TRATOR=ブルドーザー)とあだ名をつけられた。
▼企画予算大臣=ネルソン・バルボーザ(NELSON  BARBOSA Fo.)。リオ生まれ、45歳、リオ連邦大学経済、米国ニューヨーク社会研究大学院卒、財務省政策局長、企画省大臣付き、BNDES(開発)銀行、中央銀行、ヴァ-―レ社要職歴任、大学教授。身長190センチの大男で、大学時代はボートの選手。PT政権では各種重要政策立案遂行に腕を振るった。
▼中央銀行総裁=アレシャンドレ・トンビニ(ALEXANDRE TOMBINI)ポルト・アレグレ出身、51歳、ブラジリア大、米国イリノイ大学卒、ブラジル中央銀行各役職を歴任した。IMF補佐、11年から中央銀行総裁(今回再任)。貨幣価値の維持(インフレ昂進防止)に尽力し、公的勘定の均衡、金利、為替などを管轄する。
 このように経済運営を任される3人は専門の知識経験とも豊富で、油の乗り切った働き盛りです。相撲並みの体格で押し出しも立派、海千山千の政治家との応接、外国機関との折衝などでも引けはとりません。ということでブラジル内外の金融界、産業界などの今回人事への評価も上々でした。ジウマ第2期政権の順調な第一歩でしょう。

 勘定を正し健全財政を

 この3人のエコノミストたちは、今までのマンテガ財務省の人達と業務のすり合わせ、新政策の協議などを行っているところで、まだ正式にその地位に就いたわけではありません。当然大きなことや、新政策などは発表していませんが、今回お披露目の際には大体以下のような方針を表明しています。
(1)国や公的機関の勘定をキチンとさせ、財政健全化を図る。それにより政府への信頼感を取り戻す。前政権では政治的都合などもあり、つい支出が増えた。
 それで国の収入(歳入)から支出(歳出)――但し金利勘定は除外――を引いた残りを黒字にすべしという基準があったのだが、この黒字幅が段々低下してきていた。
 黒字が少ないと国の借金(国債)の金利が払えなくなり、国の財政が破綻することになります。それでこの基礎財政収支を2~3年かけて適正な黒字(SUPERAVIT)に戻そうというのです。
(2)インフレが拡大しないように抑える。インフレが昂進すると、庶民の生活が苦しくなることは皆様御存知です。それでこれを政府目標の年4%とか6%の線で抑えようというのです。
 インフレを抑える有効な手段は市場に出回るお金の量を抑えることです。それには金利を上げます。現在の政策金利は年11・25%ですが、これを更に引き上げ11・50%とか12・00%にしようというのです。これは近々に実施されるかもしれません。
 これを私共の利用する小切手の当座貸し越し(cheque especial)の金利にすると100%以上になります。
 ブラジルの金利は世界のトップクラスと言われていますが、余り自慢にはなりませんね。
(3)おかしな支出をカットし、収入を増やす。一般家庭でも家計が赤字になれば支出を減らす(不急なものを買わない)か、収入を増やす(月給が上がらないなら、アルバイトでもする)しか有りません。国の場合、今回言われたのは失業保険や給与ボーナスの支給を厳格にする・補助金のカットなどです。収入の方はコストを無視して抑えてきた電気料金を改訂(引き上げ)や昔あった燃料に掛かる税金の復活などが言われています。
(4)経済施策は公明に徐々にやり、突然の大変革(PACOTE)はやらない。以前サルネイや、コーロルの時代に突然経済政策の大変革(PACOTE)が実施され一般庶民は途端の苦しみをなめさせられました。新政権では公共会計などを透明化し、このようないきなりの『やみ討ち』はやらないというのです。
 次期政権としては以上のような政策実行によって市場(国民)の政府への信頼を回復し、それをベースに次の経済発展につなげたいのです。
 上のような厳しい政策ばかりでは国民の支持は中々得られないでしょうから、新スタッフはまず、国の財政を整え、2~3年たったら、それを基礎にして次の発展策を打ち出そうとしています。
 民間の企業化精神、自由競争、イノベーションを活用し、経済を成長発展させようというのです。このような施策は来年新政権として発足した後、大統領と一緒に発表されるのでないでしょうか。

 これからどうなるか

 ブラジルの経済成長率(GDP)は今年1%以下に落ち込んでいます。また、上に述べた基礎財政収支(プライマリーバランス)も3%くらいに設定されていたのに、今年はゼロに近くなっています。
 今までサッカーだ、選挙だと楽しく(?)過ごして居る内に、国の懐具合は悪くなっているのです。それではこれからどうなるか? どうしなければならないのか? 最新の中銀発表資料をもとに検討してみましょう。(あまり面白い話ではないが、重要な話ですから、よろしく)
◎国内総生産(GDP)の伸び率は今年0・19%、来年は0・77%。同じBRICSと言われる中国は7%台の成長です。工業生産は今年マイナス2・26%、来年プラス1・13%。
◎政策金利(SELIC)は現在11・25%が、近く11・50%になる。来年は12・00%。ドル為替レートはR$2・65~R$2・67/ドル。
◎インフレ率は今年―6・43%、来年―6・57%。
◎貿易収支(輸出ー輸入の差)=今年はゼロ、来年は63億ドルの黒字。
◎基礎財政収支=来年GDPの1・2%、2016年から2%。
 来年以降の数字は政府目標とか予測ですから、その通りに行くとは限りませんが、政治家の大きな話とはかけ離れた、中々厳しい次期が予見されますね。

 元気を出して活動しよう

 こういう見通しを数字で示されると「このブラジル、口ばっかり、やっぱりダメか」とがっかりされるかも知れません。
 でも私達が敬愛する祖国日本でも今年、国内総生産の伸び率はブラジルよりも下(殆どゼロ)です。プライマリーバランスも収入より支出の方が大きく、その分(赤字)を国債発行などで補っているのです。『赤信号、あんたもいるから、俺も行く』ですかね。
 日本では個人消費が伸びず、物価が目標(2%)値に上がらないと悩んでいます。日本の家庭のタンスには着もしない衣類が一杯だし、車だって、冷蔵庫だってこれ以上買っても使いようがない。だから買わない。
 『無駄を省け、贅沢は敵だ』と教えられて来た人達は、これ以上お金を使えないのです。しかしブラジルは違います。衣服も十分にない人達が沢山居ますし、車だって家電だって欲しい人は目白押しです。お金さえあれば(!)です。
 2億人のブラジル人を基にした市場があるのです。輸出、輸入の貿易にしても世界経済が上向いて、鉄鉱石や大豆(COMMODITY)の価格が上がれば、収支は一辺に改善されます。
 原油生産にしてもブラジルには他の国にはない強みがあります。ガッカリ悲観することはありません。
 経済は人が動かす生き物です。その国で生活する人達が元気を出して活動すれば、経済も活気づき歯車も良い方に回転して動きだします。
 優秀な経済運営スタッフの活動に合わせて、私達も元気を出してこの国を盛り上げていきましょう。(ご意見はこちらへどうぞkomagata@uol.com.br