寄稿=麻薬やテロ団と模範企業=目覚めるもう一つの国=パラグァイ 坂本邦雄

ブラジルを訪問した時のオラシオ・カルテス大統領(2013年9月、Foto: Jose Cruz/Agencia Brasil)

ブラジルを訪問した時のオラシオ・カルテス大統領(2013年9月、Foto: Jose Cruz/Agencia Brasil)

 毎日の新聞、テレビやラジオのニュースを読んだり観たり又は聞いていると空恐ろしくなり、わがパラグァイは一体どんな方向へ進んでいるのかと心配になる。
 その兆候は不気味で暗く、テロ団はマリフアナの闇栽培を守る為に罪なき農民を容赦なく暗殺し、市民は不満で地方行政、あるいは中央政府の悪政に抗議し、盛んに筵旗(むしろばた)を立てたり街頭デモを繰り出したりしている。
 汚職や腐敗は政府三権に深く蔓延はびこり、その撲滅の行政対策は一向に効果が挙がらない。
 密輸勢力はまともな産業や貿易をあざむき、その犯す被害は甚大で、この様に悲惨な社会情勢に対し、無力な一般市民は為す術を知らず、憤懣やる方ない思いなのである。

はびこる密輸、政府汚職や腐敗

 でも、これが我々が住む唯一のパラグァイなのだろうか? マスメディアは先述の否定的な色んなニュース程の大袈裟な取り上げ方はしないが、一方では真面目に活躍する企業、団体、事業家などがレンガを一つ一つ積み上げながら新しいビル(国)を焦らず弛(たゆ)みなく建設している頼もしい姿を報道しているのは、せめてもの救いである。
 最近ADEC=キリスト教ビジネス協会(Asociacion de Empresarios Cristianos)が開催した、恒例の2014年度の連続第21回目に当る模範企業表彰式は確かに我々の日頃の苦悩の慰めになる〃清涼剤〃たる悦ばしいセレモニーであった。
 毎年のこのイベントは、出席者が2時間余りにわたり味わう感激の会合であり、表彰受賞者各々がいかにして多くの人達の規範になる美徳の精神を以って事業に成功したかの証言を聞き、感動するのである。
 それは、ADEC会長のルイス・フレテス技師の開会挨拶の趣旨の一部を借りれば、「受賞者の皆が共通して備えた各自の特質は、選考に当り綿密に注意深く評価され、参考になった」と言う次第なのである。
 受賞事業家の誰もが一様に追及した成功の秘訣は、夫々のビジネス業種の需要に応じ国外における人材の常時研修に努め、熟練専門スタッフの養成を以って最新技術の各自企業への導入又は移転を怠らなかった点にある。
 困難に当っては、国の補助金や特典も、当局に特に要請する事もなく、粘り強く難局を切り抜けた努力が、また成功の一つの大きな要素となったのである。つまり、これ等の全ては情熱の事業に霊感し、かつその開発の努力に喜びを覚えたものに他ならない。

補助に頼らず難局切り抜ける民間企業

 しかしながら事業家の責任は、自社の経営効果や成功を追求するに止まらず、非営利的団体又は事業家共同体に能動的に参加すべき国家的及び社会的な義務も包含するのである。
 いわゆるこの「企業社会的責任」の哲学において、企業は社会改革に独特な影響力を備えた存在である。なぜなら公衆の一部を構成する自社の従業員に始まり、顧客、御用サプライヤー、環境、中央政府及び地方行政機関に対し、その業務効果が同時に強く波及し得るからである。
 だが遺憾なのは全ての企業が必ずしも真面目だと言う訳ではなく、脱税、汚職、又は違法商行為に直接係わっている例が後を絶たない事である。
 しかる所、ADECの主催・イニシアティブによる毎年の「模範企業表彰式」の行事が始まってから21年目になったが、これまでに200社有余の優良企業が表彰され、これからも引き続き模範に値する企業が選ばれて行くであろう。
 これ等の多くは「富と創造の先駆」たるイタプア県など地方の民間企業を始めとし、当局に忘れられ勝ちな零細小農家の包括活性化に至るまでの深遠なパラグァイ新興の象徴的な事象の様相を反映するもので、かつ麻薬政治家連の安易な金儲けの甘い誘惑にも優に耐えて、勝ち抜け得る可能性を示すのだ。
 要するにこれ等の表彰受賞者の好例は、取りも直さず新たな希望のパラグァイが将来ではなく、ただ今ここで現実に興隆しつつある証拠に他ならないのである。
 将来更に多くの優秀な事業成功者が紹介され、励ましの表彰を受け続けて行くに連れて、その蒔いた種は豊かに実り、進歩の樹は増殖し成長し続けるであろう。
 我等の責任はこのパラグァイ興国の道を一途に邁進し、仮初めにも国を麻薬政治などの崖淵に落とし込んではならないのだ。(UH紙4月4日付記事引用)