寄稿=どうすれば治安は良くなる?=銃器所持、成人年齢引下げの問題=賛否両論をかかえて国会審議中=駒形 秀雄

 「ブラジルは資源は豊富にあるし、気候は穏やかで地震はない。これで治安が良ければ住みよい国なんだがなー」これは多くの人々から聞く言葉です。正にその通り、日本から移り住んだ人達も何の資本もなく「腕一本、脛一本」ガンバリ精神だけを頼りにこの国で暮らして来たが、今じゃ自分の住む家と食べ物は不自由なくある。子や孫たちも高等教育を受けて立派なブラジル人として独立していて、自分では人生とはまあこんなものかと満足している。考えてみればブラジルは大らかな、中々良い国なのです。しかし、本当に治安だけは頂けません。

銃器を集めるキャンペーンの様子(2014年3月19日、アラゴアス州マセイオ市で、Foto: Paulo Rios/Agencia Alagoas)

銃器を集めるキャンペーンの様子(2014年3月19日、アラゴアス州マセイオ市で、Foto: Paulo Rios/Agencia Alagoas)

 私達の周辺だけでも実生活している殆どの人が強盗や泥棒、暴力の被害を受けています。中には運悪く生命を失ったり、何の罪もない肉親が犠牲者になったり、そういう人がこれまたたくさん居るのです。こういう危ない状態を何とかしようと、行政府や国会も色々と考えて手当てを講じては居ます。
 最近国会では以下のような法案が上程、審議されており、それへの賛成、反対両グループの争いがTVなどで報道されていました。この『銃器携行の自由化』『未成年年齢に引き下げ』について皆さんはどうお考えになるでしょうか? ここにその判断材料を御紹介致しますので、どうぞ皆様の検討、対応策などをお聞かせ下さい。

銃器規制法はいわば〃廃刀令〃?

 私達がブラジルへ来た頃、銃器の入手、保有にはあまりうるさい規定は無く、新来の日本人はめずらしがって、試し撃ちなどをしてみたりしたものです。しかし、時がたつにつれて銃器を使った犯罪が増え、これを規制しようと言う動きだ出ました。時のルーラ大統領はこの国民の気持ちを素早く汲みとり2003年12月に銃器規正法(ESTATUTO DE DESARMAMENTO)を制定しました。これにより銃器の携行は警官、軍人など特定の人に限られるようになり、一般市民の保有は大幅に制限されました。日本で言えば明治初年の「廃刀令」制定のようなものです。
 ところが今、私達があまり知らない内に、この「銃器規正法」を廃止し、誰でも自由に銃器を持てるようにしようと言う法案が議会に提出されていたのです。提案者はPMDB党のメンドンサ氏ほかでその内容はおおよそ「自分の身は自分で守る―と言う自衛権は憲法で保障されているところだ。一定の条件を満たす市民には自由に銃器を持たせ、日常の携行も自由化しよう」と言うものです。具体的には・
▼銃器を買える年齢を現25歳から21歳に引き下げる。銃器9丁、銃弾年間5400発までは保有できるとする。
▼武器弾薬類の広告を自由とする(現在は出来ない)などです。
 これにはもちろん多くの反対論があり、12の市民団体が「規制堅持」を表明し、政党ではPT(労働者党)、PC do B(共産党)などがこれを支持しています。自由化反対論は「一般市民に銃器を持たせる事は犯罪の防止に役立たないだけでは無い、逆に市民の生命を危険にさらし、人身犯罪の増加につながるものだ」と主張しています。

今年3月31日に連邦議会の憲法司法委員会が、刑法成人年齢引き下げ法案を可決した時の様子(Foto: Marcelo Camargo/Agencia Brasil)

今年3月31日に連邦議会の憲法司法委員会が、刑法成人年齢引き下げ法案を可決した時の様子(Foto: Marcelo Camargo/Agencia Brasil)

 現在ブラジルでは約800万丁の武器が一般に保有されており、その販売高の推移を見ると、規正法の出来た2003年が5万7千丁、その6年後の2009年では3万7千と落ちて、規制の効果が現れています。
 日本では一般人は許可無く銃器を持っただけで罰せられますから、大体『規制法廃止に反対』だと思われますが、賛成派の後ろには強い勢力のあることも予想され、法案がどうなるか、全く予断を許しません。
 現、規制法にもとずき銃器保持禁止イエスかノーか(SIM OU NAO)が国民投票に掛けられた時、強力なバックの支援を受けた規制反対派が勝った事を思い出して下さい。で、皆様のご意見は如何でしょうか?

成人年齢を16歳からに引き上げよ

 現在ブラジルの法律では18歳をもって成人とする、と規定しております。刑事罰を適用する成人年齢を引き下げる(Reducao da Maioridade Penal)議論が連邦議会で盛んに行なわれています。
 17歳以下は未成年と言う事で大人の刑罰が適用されません。それもあってか、この年齢層の犯罪が目立っています。大人の悪人たちが、「お前たちは何をしても直ぐ釈放されるからな」と未成年者を自分たちの犯行に引き込んだり、麻薬取り引きに加担させたりしているからなのです。『17歳と言えば、知恵も体格も立派な大人だ、それなのに悪事の時だけ子供扱いで放免とはおかしいじゃないか』『成人年齢を16歳以上と変えて、一般刑罰が適用されるとなれば、この層の犯罪参加を減らせる力になる』これが成人年齢引き下げ論者の論拠です。自分の身内や親しい人を未成年者に殺害された人々がこれを強く主張しています。
 このような法案は以前から種々提案されていたのですが、長い間引出しに仕舞われたまま、審議されていませんでした。
 これが4月に入って下院で審議され、その継続審議と特別委員会の設置が決まりました。成人年齢引下げ派は次の様な点も指摘しています。
▼米国では大部分の州で12歳以上の犯罪行為には成人並みの法的扱い(刑罰)をしている。
▼2013年の世論調査では国民の93%が『成人年齢の引き下げ』に賛成している。です。

成人年齢は18歳からでよい

 この成人年齢の引き下げについては相当の反対論もあり、今回の議会の審議でも賛否両論入り乱れての争いが見られました。引き下げ反対論者の主張は大体以下のようなものです。
▼ブラジル憲法では『18歳以上を成人とする』と明確に規定している。この憲法の基本的条項を議会で簡単に改変してはならない。
▼刑務所は犯罪者養成所みたいなものだ。若い者が刑務所に入れられたら、もっと悪いことをおぼえて出てくる。また、16歳以上を罰せられるようにしても、悪人たちは今度は15歳以下の未成年を犯罪に引き込むようになるだろう。
▼現未成年者(16歳、17歳)の殺人(未遂も)件数は全殺人の0・5%に過ぎない。少数の例で眼をくらまされてはいけない。それより犯罪予備層の者の教育、環境改善に力を入れるべきだ、等々です。PT、PCdoB党などがこの年齢引き下げに反対しています。
 なお、世界主要187国中、141カ国は成人年齢は18歳からとしております。また、日本は民法で20歳からが成人だ、としています。

自分の住む社会に参加しましょう

 以上、二つの法案は国会だけでなく、社会全体でも賛否両論があって中々これと決め難い案件のようです。
 これらの法案を『法律』として成立させるにはまず下院で審議して後賛否をとり、総投票513票の60%以上の賛成を得ます。その後、今度は上院でも審議し、やはり総投票81票の60%以上の賛成が必要です。
 順調に進んでも、今年中に採決して大統領による発効手配に持ち込めるかどうか、ではないでしょうか。今なら、私達の考えを私達の住む社会のルールに反映させ、取り込むことが出来るのです。
 「ブラジルは治安が悪いのが玉に瑕だ。上が汚職なら下は泥棒だ。この国はダメだ」と嘆いてばかりいても世の中は良くなりません。幸いにブラジルは民主主義の国で誰でも自分の思うところを発言できます。何か言ったら直ぐ逮捕される独裁国とは違うのです。「こうしたらブラジルの治安は良くなる。街を安心して歩けるようにするにはこうすれば良い」と日系人の私達も堂々と意見を述べましょう。
 直接言うのが難しいというなら『治安向上・犯罪撲滅』を看板に選出された議員さんも居るのですから、このような方がたを通じて発言し、より良いブラジル社会形成に積極的に参加致したいものです。
 新聞社にもドシドシ御意見をお寄せ下さい、皆様と一緒にこのブラジルを良くするように致しましょう。―(ご意見は=komagata@uol.com.brへどうぞ)