震災映画ブラジル初公開=杉田真一監督 『人の望みの喜びよ』=震災を生き抜く姉弟描く=国際映画祭で大絶賛

 大震災で両親を失うも、希望を持って生きる子どもたちを描いた長編映画作品『人の望みの喜びよ』(2014年、85分、日語サイト=nozomi-yorokobi.com)が、14日よりサンパウロ市で公開される。世界3大映画祭「第64回ベルリン国際映画祭」において、子どもが審査員を務めるジェネレーション部門で絶大な支持を受け、最高賞に次ぐ特別賞を受賞した。監督の杉田真一(34、兵庫、すぎた・まさかず)さんも同祭で新人監督賞にノミネート。本作品が初の長編デビュー作品となった。

 突然襲った大地震で、姉の春奈(12、大森絢音)と弟の翔太(5、大石稜久)の家は倒壊し、家族は生き埋めに。二人は親戚の家に引き取られるが、気持ちの整理もつかぬまま新しい生活が始まる。両親が亡くなったことを弟に告げることが出来ず苦しむ春奈の心を、翔太のまっすぐな気持ちが徐々に動かしていく―。
 1995年、阪神・淡路大震災が起きた時、杉田監督は伊丹市で被災した。「想像だにしなかったことが私の目の前でおこり、すべてが超現実的に見えた。私は14歳で、ただ呆然と見る意外、何もできなかった」と振り返る(ポ語リリースより)。
 後悔と自責の念に苛まれた気持ちを抱えたまま、2011年3月、今度は東日本大震災に直面した。同監督は「見る以外になすすべがなく、自分を無力に感じた」と語る。日本を襲った二つの震災から受けたそんな無力感が、監督をこの作品制作に駆り立てた。
 少年時代に重ねあわせてか、本作品では姉と弟の支えあいから生まれる希望を、子どもの視点から描くことにこだわった。「主演一人一人の心が命じるままに動いてほしくて、その気持ちを尊重したら、カットが長くなることもあった」と同監督は述べる。
 春奈役は台詞の少ない難役だったが、大森絢音さんは表情や目線を使って見事に演じ、大石稜久君も純粋無垢な笑顔で作品がテーマとする「希望」を体現した。
 そんな二人の熱演は国境を越え、ベルリン国際映画祭で子どもの共感と感動を呼んだ。ワールドプレミア(世界初上映)では千人以上収容の巨大な劇場が満席となり、大喝采を浴びたという。
 二つの苦い震災体験を自分の中で繰り返し咀嚼し、凝縮した今作品。複数の都市での上映が予定されている。
 杉田監督は「ブラジルで公開されるなんて思ってもみなかったので、スタッフ皆、喜んでいます。ブラジルの皆さんがこの映画を愛してくださることを祈っています」とのコメントをブラジルに寄せた。
     ■
 視聴会が9日午後11時55分から、Cinema Reserva Cultural(Av. Paulista, 900)で開かれる。14日以降の上映日程はわかり次第詳報する。

【杉田真一 すぎた・まさかず】

 1980年生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学映像学科卒。在学中に監督した短編『夢をありがとう』が新星学生映画祭観客賞受賞。卒業後、阪本順治監督、山下敦弘監督、大森立嗣監督などの作品にスタッフとして参加。2011年、短編映画『大きな財布』を監督。国内映画祭で5つの賞を受賞、また海外の評価も高く、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、計6カ国の映画祭から招待を受ける。今作『人の望みの喜びよ』で長編監督デビュー。第64回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門にて、 最高賞に次ぐスペシャルメンションを受賞。また、同映画祭で新人監督賞へノミネートされる。