第42回県連故郷巡り=時を遡る―奥パからノロ線へ=第12回=リンス=涙で最後まで歌えない『歌』=「お寺だけで歌うの勿体ない」

栗林さん

栗林さん

 「先ほど皆さんで歌ってもらった『移民の歌』はね、つい10、20年前までは、途中で泣けて泣けて、最後まで歌いきらなかった歌なんですよ。日本でも紹介したことがあるんですが、日本の人に至っては聞いてもくれない。豊かさに酔いしれている感じがしますね」と遠い目をした。
 今の檀家も330家族いるという。「毎週末に日曜学校を行い、子供や青年らが90人ぐらい来る。今では赤子の葬儀などは一つもない時代になりました」。
 安永和教さんの司会で一行は、輪になって東京音頭、河内男節などの盆踊りをし、文字通り隣の人と「おててつないで」を踊り、最後に『故郷』を全員で歌った。別れ際には、抱擁して別れを惜しみ、肩を叩きあう姿があちこちで見られた。
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 モジ在住の一行の栗林茂さん(70、二世)は「15歳の孫には3、4歳から日本語を教えている。だからカラオケも大好きになって、日本語の歌詞の意味を説明すると、とても喜ぶ。『故郷』の歌詞を説明した時は、『お前のふるさとはモジのことだよ』って言ったらとても喜んでね」と笑顔を浮かべた。

中原夫妻

中原夫妻

 一行の中原日出姿さん(ひでし、80、二世)は「あの『移民の歌』はお寺だけで歌ったらもったいない良い歌ですね。戦前移民の本当の心が歌になっていると思う」としみじみ語った。その兄でボツカツから来た東林さん(はやし、91、二世)が、今回の参加者中最高齢だという。
 日出姿さんの夫・浩平さん(84、長野)は、「ドラセーナの会館のトイレの入り口には『ご不浄』と書いてあった。あれは世界でも珍しい。それにあそこの和太鼓はリズムが凄くて迫力があった。単調な和太鼓も多いが、あそこのは別物だった」との感想を語った。
 サンパウロ州グアラレーマの桜植民地から参加した福元美代子さん(82、宮崎)は、「珍しい女性のお坊さんの法話がすごく良かった」という。

福元さん、中村ちづこさん、向田さん

福元さん、中村ちづこさん、向田さん

 同じく桜植民地の向田重子さん(むかいだ・しげこ、80、群馬)は「どこの植民地も元気があって大したもの。桜植民地は青年部もなくなったみたいになっているのに」という。「昔は60家族いたけど、今は30家族ほど。5月の終わりに焼きそば祭り、8月には盆踊りと慰霊ミサをやるわ」。
 福元さんと向田さんは同船者。「59年にアメリカ丸できたんだけど、美智子様のご成婚が船の中で発表され、紅白饅頭にタイの尾頭付きが出て急に豪華客船みたいになったわね」と顔を見合わせて笑った。(つづく、深沢正雪記者)