ブラジルバブルは崩壊したか=経済立て直しの鍵は=再興に20余年かかる?

 ルーラ政権時代(2003~10年)までの年平均5%の経済成長から一転、今やマイナス成長も目前で、年間インフレ率も8%を超え、さらにペトロブラスの大型汚職(ペトロロン)で政界腐敗も伝えられるなど、一時期の世界からの華々しい注目度から転げ落ちた感も否めないブラジル。「バブルがはじけた」という言い方がふさわしい状態だが、この後、この状況から脱するには果たして何をすれば良いのだろうか。

発表式典で横に並んだジウマ大統領、テメル副大統領、レヴィ蔵相(Foto: Lula Marques)

発表式典で横に並んだジウマ大統領、テメル副大統領、レヴィ蔵相(Foto: Lula Marques)

 ブラジルの2000年代の好景気は、よく日本の1980年代後半から90年代初頭にかけてのバブル経済とも比較される。「これまで訪れたことのないような未曾有の好景気に国民が浮かれていた」。傍から見たおおまかなイメージはそうしたものではないか。
 いつの時代、どこの国にも経済には浮き沈みがつきものだ。沈んだ状態にあるときにこそ、「なぜそうなったのか」「どういう対策を施していけばよいのか」を考えることこそが、景気を上向かせるのに必要だ。
 残念ながら日本はバブル時代からの落ち込みの際に具体的な打開策を見出せず、20数年ものあいだ迷い続けている。今や世界中の人々の生活に欠かせないIT産業で乗り遅れ、携帯電話は内需を潤してばかりで国際競争では完全に蚊帳の外。加えて、お家芸の家電や自動車でも、国際市場では韓国や中国の企業の猛烈なつきあげをくらい、その焦りと両国の日本に対する強気な態度も加わり、今や右寄りの勢力のあいだではこれらの国への嫌悪感さえ高まり、改憲の可能性さえ見え始めている。

まだかなりある伸びシロ

焦点となっているエドゥアルド・クーニャ議長(Foto: Luis Macedo/Câmara dos Deputados)

焦点となっているエドゥアルド・クーニャ議長(Foto: Luis Macedo/Câmara dos Deputados)

 それと比較すると、まだブラジルの苦悩は大きなものとは言えず、のびシロもいくらでもある状態だ。国内総生産(GDP)7位とは言え、企業の国際競争力はたかが知れたもので、「まずは生産性をあげるところから」「事業円滑化のための投資を活性化させることからはじめる」という状況のようだ。9日に連邦政府が発表した、経済成長の足かせのひとつ、インフラ整備のために1984億レアルの投資計画も、まさにそうした対策の一環だ。
 その意味で、これまでのブラジルの保護貿易的なやり方から、市場の自由放任を進めるシカゴ学派出身のジョアキン・レヴィ現財務相の改革には大きな期待がかけられるところだ。同財務相のやり方は、現政府にとっては最大野党の民主社会党(PSDB)が支持するもので、また与党・労働者党(PT)の中には、社会政策費の削減の可能性があり、失業保険、遺族年金の受給資格を難しくするなどの「弱者切捨て」のようにも見えるやり方に、イデオロギー的なアレルギーを起こしている勢力も少なくない。
 そうしたイデオロギー上の問題で、国政が「経済成長復活のため」に一枚岩になれずに揺れている現状は見ていて気がかりではある。加えて、連邦政府からの案を、現在、民主運動党(PMDB)のエドゥアルド・クーニャ議長が闇雲に反旗を翻す光景も疑問だ。
 同議長の場合、その根底にあるのが、自身がペトロロンでの収賄の疑惑で、222222連邦警察の調査を受けるリストに名前が入ったことを「連邦政府が自分を守ってくれなかったせいだ」との逆恨みしている。
 個人の感情の問題を優先し、「国の将来」が見据えられないようでは心もとない。加えて同議長には、議員権力を強めるような法案を優先的に推進する傾向もあり、「これで政治浄化などできるのか」の疑念も政界や司法界の中で広がっている現実もある。

大統領と国民の一体感が再浮上への鍵か

12日、サルバドールで開催されたPT党大会で演説するルーラ前大統領。ここでエドゥアルド・クーニャ議長への不満が噴出した。(Foto: Ricardo Stuckert/Instituto Lula)

12日、サルバドールで開催されたPT党大会で演説するルーラ前大統領。ここでエドゥアルド・クーニャ議長への不満が噴出した。(Foto: Ricardo Stuckert/Instituto Lula)

 こうした状況から「一致団結」を求めるには、大統領の強いカリスマ性が求められるが、14年10月の大統領選がただでさえ辛勝に終わり、さらにペトロロンでPTの信用がガタ落ちした状況では、それもなかなか難しいのも現実だ。まだ任期は3年半あまり残っているが、ジウマ大統領が威厳をどう取り戻すかが、経済復活のカギを握っていることは否定できないだろう。
 今年の3月と4月に行われたジウマ大統領への大規模な抗議行動の際には、「軍隊を介入させてジウマを罷免せよ」などという、軍政の再来を肯定するような主張を展開する一団も、世論からの支持はほとんど受けなかったものの、存在したことはした。
 ただ、軍政でなく、ジウマ氏を今罷免したところでミシェル・テメル副大統領(PMDB)が昇格するだけの話で、何かが大きく変わることは期待できない。
 国政を見張り、ときに厳しい意見を国民の立場から浴びせるのも必要なことだが、それがあくまでも将来のブラジルにとって建設的なものであることが必要だ。
 こうした「苦境を乗り越えるための一体感」が生まれれば、ブラジルはまだいくらでも再浮上することは可能のはず。ただし、現状が長引くと、日本が迎えた20数年の混迷の二の舞になりかねないだろう。