第36回 不景気のブラジルで生き残る外食ビジネスとは?

レストランバー「HOOTERS」

レストランバー「HOOTERS」

 私が日本に帰国している間に、コンサルタント会社のサンパウロ事務所が入っているビル(パウリスタ大通りに面したビルのすぐ裏手で領事館の近く)の隣の店舗の改装が終わり、新しい店が出来たと聞いて楽しみに帰ってきた。
 景気が落ち込み、飲食店の売上も軒並み10?30%落ち込んでいる時に、店を畳むのか、思い切って改装をして勝負に出るのか注目をしていたが、大改装をした上に、アメリカのフロリダ発祥で、世界28カ国で430店舗以上展開しており、日本でもすでに5店舗オープンしているレストランバー「HOOTERS」がオープンしたのを見て、さすがに唸った。
 財布の紐が固くなっている時に、多少のいい店を開いても、なかなか客が来ないものだが、このタイミングで確かに「HOOTERS」であれば、ブランド力もあり、パウリスタ界隈にある、あらゆる店とも差別化が出来ており、かつ「カジュアル・アメリカン・ダイニング・アンド・スポーツバー」というコンセプトは、ブラジル人も大好きで、料理単価も周りのちょっと気取ったレストランに比べて高くないので仕事帰りにふらっと立ち寄りやすい。
 そして、店の売りはなんと言っても、ぴちっとしたタンクトップに短パンのフーターズガール。日本の「HOOTERS」を知るお客さんを連れて行くと、明らかに短パンなのに、丈が日本よりも短いと言い、リオからきた友人を連れて行ったら逆に、リオには露出が足りなくてちょっと厳しいと。なぜなら、近くのビーチにたくさん水着の女性がいるからと、それぞれで面白いコメントであった。
 しかし、ビジネスビルの真ん中で違和感があり、なぜパウリスタなのかと思ったが、その訳が調べていてわかった。パウリスタは1号店ではなく、すでにビラ・オリンピアとモッカにもあり3店舗目。日本の「HOOTERS」は、赤坂(東急プラザ)、銀座(8丁目)、渋谷(道玄坂)、新宿(西口)、大阪(中央区本町)の順にオープンしている。
 1号店が赤坂であることや、銀座もほぼ新橋であること、新宿が西口で大阪も難波などではなく、本町というビジネス街であることを見ると、「HOOTERS」の戦略が見えてくる。ブラジルも、パウリスタがビジネス街だからであり、ビラ・オリンピアもまさに新興ビジネス街、モッカは労働者が多い場所である。ターゲットは完全にビジネス人・労働者たちで、仕事の後のカジュアルな一杯である。
 例えば、私が頼んだ「BUFFALO PLATA」は日本では1980円、 ブラジルでは49.9レアルで、今の為替なら1990円とほぼ同額。カーリーフライは日本が650円で、ブラジルは27.9レアル(約1110円)で約2倍。生ビールは日本が650円、ブラジルは9.9レアル(390円)でこれは半分。おそらく昼夜合わせて、安く見積もって客単価がブラジルでは50レアル(2000円前後)、日本では3000円前後ではないか。
 一人200レアルのシュラスカリアはなかなか行けないが、50レアルは、不景気なブラジルでも、この界隈で働いている人ならば、月に何度かは寄れる金額である。 客単価50レアルで1日500人来店すれば、1ヶ月で7万5000レアル=約3000万円。家賃がおそらく7%前後、人件費が30%前後、原価を20%、税金を10%、投資回収5%、その他雑費3%とすれば、25%の利益が残り、これだけ売上げれば、十分採算が合うだろう。
 今後も、日本とブラジルの外食産業の比較検討のために「HOOTERS」ははいいベンチマークとなる。ということで今回「HOOTERS」に通う言い訳になってしまった。

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。