第42回 日本人が信じられないブラジルの不都合な真実 ②

 前回はブラジルの不都合な真実として、企業がブラジルに進出しようと思い立ち、反応を見たいと考えてサンプルを送ろうとしても、商品カタログなどの印刷物から商品サンプルまで、荷物さえ簡単に送れないという、GDP世界10位以内に長年入っている国で起こっている不都合な真実の話をした。
 これは、単に送るのが大変だということだけではなく、きちっと輸出入手続きをしなければ送れないため、かなりの費用がかかることになり、中小企業には簡単に手が出せないということが問題である。これがわかってくると、中小企業にブラジル進出を簡単には勧められなくなってくる。
 何とかサンプルが送れて展示会に出ることができ、そこでPRをすると、やはり日本のハイエンドな商品は評判がいいので、多くの場合来場者は必ずその商品が欲しいと言う。日本企業側は、まずは反応を見るためだけに展示会に出ているので、参加するまでに自社商品がブラジル企業にいくらで卸せて、いくらで小売販売が出来るか詰め切れておらず、FOB(本船甲板渡し条件)価格であったり他国で販売している価格を例に出すわけだが、これが後々問題となる。
 とりあえず反応良好ということで、出展した企業はブラジルで販売すると、人口も多いし所得も上がっているので、かなりいけるのではないかと期待して、販売代理店を探してくださいとなる。「できれば一社を総販売代理店として、その下にブラジルは広いから地域の販売代理店、さらに特約店とつくって全土に販売網を広めたい!」と壮大な計画だ。そこでまた、私は不都合な真実を述べなければならなくなる。
 「そうすると末端価格はFOBの10倍になりますが、よろしいですか?」と。それでも売れるものであれば、引き受けますが…。そうすると先方の顔と目がみるみると変わり、右下斜め45度から見上げるような視線で、「はっ? 何をおっしゃっているんですか? 私どもは世界中でそのような方法で販売し成功をしています。グローバルに展開しているので他国の事情も知っていますが、何をわけの判らないことを言っているんですか?」と。
 そこで、ブラジルは関税がX%だから、どうしようもないのですよとスパッと言えれば、しょうがないですねとなるところだが、さらにブラジルは不都合なことに、輸入にかかる税金が何種類もあり、税金ではないが払わなくてはいけない費用項目がたくさんあり、これがなかなかうまく説明ができない。
 というか、紙に書いて説明するのだが難しすぎて、混乱をきたして、なかなか納得してもらえない。ここでまた、われわれが煙に巻いて、利益を抜こうとしていると勘違いされそうでやりきれなくなる。
 これを乗り切っても、その後には販売店における税金の新たな真実が出てくる。商品流通サービス税(ICMS)、ルクロ・プレズミード、ルクロ・ヘアルなどを説明し、販売店も「利益」ではなく「売り上げ」の20~30%を税金で取られるので、仕入れの倍ぐらいの価格で売らないと利益が出ないことを説明するのだが、この頃にはお客様に真正面から睨まれることになる。
 展示会で来場者に説明した価格はすでに破綻しているのだ。なかなか弱った、コンサルタントにも不都合な国である…。(つづく)

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。
 2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。