自らのタブーを乗り越える「復活のフェイジョアーダ」

岡詢さん(2005年のフェイジョアーダ会で)

岡詢さん(2005年のフェイジョアーダ会で)

 岡山県人移住105周年が8月23日に祝われた記事を読みながら、岡詢(まこと)元会長(享年76)が今年5月に亡くなったことを、今さらながら残念に感じた▼フェイジョアーダ会の仕込みをしていた02年6月8日の夜、岡さんは会館の台所の蛍光灯が消えていたので直そうと脚立にのった。それは、グツグツと煮えたぎる大鍋の真上だった。配線を引っ張った途端、岡さんはバランスを崩して落ち、鍋の中身を被ってしまった▼「残念ながらもうダメでしょう」―皮膚の40%が重度火傷、全身をガーゼでグルグル巻きにした岡さんの家族に、医者はそう引導を渡した。以来、県人会では「フェイジョアーダのフェの字も言わなくなった」▼「毎日、ガーゼを取り換えるだけで3、4時間かかった。そのたびに皮膚がもげて血が流れる。あの痛みはやったもんじゃなきゃ分からんよ」と岡さん。通常の痛み止めが利かず、モルヒネを制限まで投与した▼結果的に1カ月で奇跡の退院。いつも県人会のことを考えていた岡さんは、自分のせいで十数年続いてきたフェイジョアーダ会が中止になり、火が消えたようになっていたことを気に病んでいた。「活気を取り戻すにはイベントをやって起爆剤にしなくては」と自ら呼びかけ、反対を押し切って同会を05年に再開催した▼「3年ぶりの味は?」と尋ねると、「婦人部が丹精込めて作ってくれたもの。特別の味。美味しく頂きました」と噛みしめるように語った。県人会への想いで、自らのタブーを乗り越えようとする姿に、取材をしながら感動を禁じ得なかった。ブラジルの国民食に関する日本移民の逸話もまた、味わい深い。合掌。(深)

鍋浴び全身火傷から3年=岡会長、自ら復活呼びかけ=フェイジョアーダ会=岡山県人会で「解禁」
https://www.nikkeyshimbun.jp/2005/050630-72colonia.html