終の地と決めて悔い無きブラジルに老いて尚見る故里の夢=第67回全伯短歌大会=総合1位は富岡絹子さん

 第67回全伯短歌大会(椰子樹、ニッケイ新聞共催)が13日、文協ビル内のエスペランサ婦人会サロンで開催され、例年より多い49人が参加し、久しぶりに歌友と顔を合わせながら歌作りを一日楽しんだ。184首の中から栄えある総合1位を獲得した富岡絹子さんには「清谷益次短歌賞」が贈られた。

受賞者代表で挨拶する富岡絹子さん

受賞者代表で挨拶する富岡絹子さん

 司会の多田邦治さんから初出席者の山田かおるさん、足立有基さん(ありもと)、佐野壮姿さん(たけし)、伊藤智恵さん(ともえ)、宮城あきらさんが紹介された。
 当日発表された互選総合高得点歌では、応募された184首の中から、1位(33票)には富岡絹子さんの<終の地と決めて悔い無きブラジルに老いて尚見る故里の夢>(28票)、<戦争をせよと教える神ありや平和を祈り逃げ惑ふ民>(5票)が選ばれた。
 2位(29票)が上妻泰子さんで<日本語解せぬ孫とポ語知らぬ我との会話成り立つ不思議>(22票)、<年古りてヒョイと出てくる国ことば移民の哀しみ消ゆる事なき>(7票)。
 3位(27票)が内谷美保さんで<リモコンで操作するごとわが夫は「オイ」一言で私を使う>(23票)、<寝た孫を起こさぬように耳遠い夫に用事を手まねで話す>(4票)。
 以上の一首目が同じく「互選得票」でも1、2、3位となった。
 ニッケイ新聞からは題詠「変わり目」が出題され、1位には<日々進化続ける時代の変わり目に遅れまいとてケータイ買いたり>(金谷はるみ)が選ばれた。
 独楽吟では<うら山のはだかの木々も芽をふきて待ちわびし春になりにけるかも>(山元治彦)、上の句を女性が、下の句を男性が詠む「アベック歌合わせ」では<葉がくれの月に想いを通わせて言葉少なき二人となりぬ>(外山安津子・多田邦治)がそれぞれ1位となった。
 途中、ゲスト講演としてJICAシニアボランティアの与那覇博一さんが認知症予防に関する講演をし、皆で「ボケない小唄」を歌い、身体を動かした。
 作品の批評と鑑賞では<アバカテの枝に吊るせるブランコが今朝は静けさのみを乗せおり>(19票、互選得票4位、多田邦治)を選ぶ人が複数おり、中でも藤田さんは「暴かての枝は水平に延びてブランコに都合がいい。ブラジルでなければ詠めない歌。ブランコの動と朝の静。類型のない独特の歌」と評価した。
 また<激情は不意に込み上げ収まらず糟糠の妻われ残し逝く>(木村護まもる)に対し、早川量通さんは「これから内助の功にむくいようと思っていた矢先か。ああしておけば、こうしておけばと悔いが込み上げてきた気持ちを詠んだのでは」と解釈し、作者の木村さんは「好きなように生きてきた私を支えてくれた妻への感謝の気持ちを込めた」と答えた。
 総合1位として栄誉ある「清谷益次短歌賞」が贈られた富岡さんは受賞者を代表して「短歌を初めて数年でこんな賞が頂けて嬉しい」と声を弾ませた。

■ひとマチ点描■百寿記念して本執筆開始

「これからもう一冊」という安良田さん

「これからもう一冊」という安良田さん

 全伯短歌大会の開会の言葉で藤田朝日子さんは「100歳の安良田さんのご出席をいただき、誇りであります。皆さん、120歳目指してがんばりましょう」と檄を飛ばした。
 来月100歳を迎える安良田済さん(山口県)は、1949年2月20日に開催された第1回大会から参加している生き字引だ。「途中、第19回、20回、21回大会だけ出ていないが、残りは全部出席」という兵だ。
 来月、百寿を迎えるのを記念して「もう一冊本を書き始めようかと思っている。テーマはコロニアにおける第1号史だ。連邦議員から農産物まで初物を集める。もう30年ほども資料収集している。スクラップ帳だけで300冊、半分は史料館に寄付したけどね」と〃満を持して〃執筆に取り掛かる。
 安良田さんに倣って何か始めませんか? (深)