本紙主催 春野恵子の浪曲熱演に涙=熱演、久々に響いた浪花節=「よっ、日本一!」大歓声

 【既報関連】「待ってました!」「よっ、日本一!」などの掛け声が盛んに響き、合間合間に拍手が沸きあがった――本紙主催の『春野恵子 浪曲ツアーinブラジル』(在聖総領事館・国際交流基金後援、日伯外交関係樹立120周年記念、大阪市の助成事業)が10日、サンパウロ市リベルダーデ区の広島文化センターで行われた。本物の浪曲を聞こうと集まった人で満員になり予備椅子まで並べられる大盛況ぶり。予定を上回る230人が惹き込まれるようにじっくりと聞き入った。

迫力ある啖呵で役柄を演じ分けた

迫力ある啖呵で役柄を演じ分けた

 まず養子と義父母との心温まるやり取りを描いた「神田松五郎」が披露され、続いてポ語字幕付き「両国夫婦花火」。江戸の二大花火師「鍵屋」「玉屋」がしのぎを削る隅田川の川開き花火大会を舞台に、切っても切れない親子の縁や夫婦の絆などを、人情味たっぷりに熱演した。
 曲師・一風亭初月さんの見事な三味線に合わせ、春野さんは伸びのある発声で、少年から老年までの声色をたくみに使い分け、表情豊かに演じた。江戸っ子らしい切れの良い啖呵(語り)に笑いがおき、感動で涙する人もちらほら見られた。
 最後に、かつての当地名人、「ブラジル浪曲協会」最後の会長・樋口四郎さん(80、福岡、カンピーナス市在住)から花束が贈られ、拍手の幕切れとなった。
 春野さんは公演を振り返り、「多く方が足を運んで下さって、むしろこちらが元気を頂いた。ありがとうと伝えたい」と感動した様子で話した。
 春野さんと浪曲談義にも花を咲かせていた樋口さんは「本物を見たという感じで私は兜を脱いだ。浪曲はやはりいいものだとあらためて思わされた」と喜んだ。
 会場を訪れた森下和代さん(74、熊本)は、「幼い頃、日本で父に連れられて見に行ったのを思い出して涙が出た」と懐かしんでいた。来場者からは「10年以上、浪曲を聞いてなかった」「ビデオはないのか」「また聞きたい」などの声も聞かれた。
 会場一番乗りだった非日系人のロドリゴ・メンデス・レーメさん(36)は「いろいろな日本文化イベントに参加しているが、浪曲は初めて。良い席で見たかったから早く来たが、その甲斐があった。物語も歌も良くて心から感動した」と満足気な様子だった。
 国内で年200回の公演をこなす春野さんは、これまでの米ニューヨーク、伊ローマ等に続き、今後も露モスクワや、オーストラリア公演を行う予定だ。英語の浪曲講演をするなど多彩な活躍を見せており、「日本人の心、浪曲を次の世代につなげたい」と意気込んでいる。

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 春野さんは登壇早々、「浪曲を聴いたことがある人」と問いかけ、会場の8割が手を上げた。有名浪曲師の名前や演目が来場者から次々と挙がり、「日本でもこんなことはない」と春野さんをのっけから驚かせた。浪曲は「一、声、二、節、三、啖呵」と言われ、何よりも声の良さが重要視されているのだとか。裏声にならない喉の強さ、声量も重要で、春野さんも「弟子入りの時に声の審査があった」と明かしていた。声に自信のある方は、樋口さん指導の下でブラジル浪曲協会復活を目指してみては。