〃復讐〃としてのインピーチメント

 「いつでも手榴弾のピンを抜く準備はできている」――クーニャ下院議長は薄笑いを浮かべたような表情で、常々そう言ってきた。その通り2日晩、彼は下院議長権限で大統領罷免請求の審議開始を承認した▼「これは復讐だ」と伯字各紙は報じた。スイス銀行の隠し資産、賄賂受取りなどの容疑が持たれている下院議長の議員資格剥奪を審議する下院倫理委員会において、PTは自党議員に対し「同議長擁護をしない」と公表したまさにその日に、〃手榴弾〃のピンが抜かれたからだ▼自分の首にナイフが当てられている状態(議席剥奪)で、相手(PT)に対して「ナイフが刺さる前に手榴弾のピンを抜いて巻き添えにするぞ」と脅し返すような緊迫した均衡状態が9月から続いていた。ブラジル政治家のこの図太さは半端ではない▼でも罷免審議開始をPTは予想していたと言われる。なぜなら同じ日に、PTの根回しで連邦議会は「財政基本収支の黒字目標変更」を承認していたからだ。「政府は財政収支の黒字目標を順守すべし」と法で規定されている。ところが今年の大赤字状態では達成不可能だし、連邦会計検査院は、大赤字を隠すペダラーダ(粉飾会計)を「違法」と判断していた。そのため大統領罷免請求の中心根拠は「法を守らなかった責任を取るべき」等の管理責任的なもの。ジウマ本人への疑惑―例えば隠し国外口座とか汚職―ではない。「支持率が史上最低」は根拠にすらならない▼それに今年の「黒字目標変更」を議会で同日承認したので、その責任は問われない。罷免請求の法的根拠は決定的に弱くなる。罷免請求を防ぐには連邦議会の3分の1以上が反対すればいいので、PTにとって実は難しいことではない。そんな読みがあって、クーニャにピンをひかせたようだ▼今後の焦点は、国民からの政治的圧力、大統領罷免に対する期待感の強さだ。法的根拠が薄くても、罷免採決は誰がどっちに入れたか公表される記名投票だから、国民の圧力が強ければ罷免も起こり得る▼92年のコーロル大統領罷免時は、わずか1カ月で採決までいった。今回どうなるか不明だが、罷免審議が長引いて年明け以降にずれ込めば、ラヴァ・ジャット作戦による政治家汚職摘発がさらに広がり、「政治浄化」に対する国民の期待感の高まるだろう。その流れとかみあえば、たとえ大統領罷免自体は成立しなくても、来年10月の地方選挙の結果には大きな影響を与える絶妙なタイミングといえる。〃手榴弾〃の破壊力が分かるのは、これからだ。(深)