パラグアイ=入植地調査よもやま話=坂本邦雄=(7)

 そこで、私はなるべく静かに運転台に座り注意深くギヤをバックに入れ安全な場所へ戻そうとしたが、さすがの四輪駆動も空回りで全然ジープは動かない。
 仕方がないので私はエンジンを切って、何か対策の方法はないかと降りようとしたところ、ズルズルとジープは独りでに小川の底にドシーンと滑り落ち、4輪を上にしてひっくり返った。
 岸の上にいた田中技師が驚いて、「大丈夫かっ!」と心配して叫んだが、私は仰向けになったジープから無事に出て来た。幸いだったのは吾がジープは屋根が普通のホロではなくハードトップだった為に私は怪我もせずに助かったのである。
 そして、その小川はチョロチョロとした流れに過ぎなかったので、水にも余り濡れずに済んだ。それから、これも上で驚いていた力持ちのペオンを呼び、二人で川底のジープを木のテコで起こし、エンジンを掛けてみたら難なく始動した。
 ここで改めて感心したのは、このジープは初め誰が発注したのかは知らぬが、オプション装備として前述のハードトップの屋根と、車の前にウインチが装置してあったのに大変助かった事である。
 それはそれとして、サア今度はどうして3メートルも下の小川の底からジープ引き上げるかだが、私はそのウインチの先をペオンに持たせズーッと上の丈夫な樹の根に引っ掛けて下れるように言った。
 そしてエンジンを掛けて、ウインチを稼動させたら、何んと70度以上もある急勾配の川岸を易々とジープを引っ張り上げて、正常な地面に戻せたではないか!
 ウインチの威力に感心したのはここだけではなく、他にもウィリーのジープで感心したのは、車の軌道の幅がトラックよりも狭いので丸木橋を渡るのには苦労した事は先にも書いたが、この欠点と思えるウィリーの特徴が、案外牛車やトラックのが深く掘れた田舎の悪路では断然有利なのである。
 と言うのは、トヨタのジープだったら車の幅がもっと広いので、その轍にはまってしまい、往々にして動かなくなるが、そんな時にウィリーのジープは、つまり〃片足を上げて通れる〃という小回りが利く訳である。
 話はあちこちと飛ぶが、ウインチのお陰で引っ張り上げたジープを改めて見ると、ハードトップの屋根は転覆で大分ヒン曲がってドアの開閉もロクに出来なく、そのままではとても乗って帰れないので、思い切ってそこで、ペオンにマチェッテとアッチャで叩き切らせて捨てる事にした。    
 フロントガラスは割れてはいなかったが枠が傷んでいるのでボンネットの上に前倒しにして、これで吾がジープは見事なオープンカーになった。
 そしてエンジンは転覆した際に少しオイルが漏れた位で問題はなく、足回りも大丈夫なので、一同またこれに乗って土地調査の踏破を改めて続けた。
 しかし、期せずしてオープンカーに変貌し、はなはだ風通しが良いジープになったのは良いが、原始林の道なき道を走ると、フロントガラスも下ろしてしまったので、やたらに垂れ下がっている木の小枝や蔓に顔を叩かれて大変だった。
 しばらくすると、ペオンが昨晩話していたカンポに出て清々したが、まだかなり長い間、材木搬出の大型カーロ(大きな車の牛車)の道としき道路を走るとまたその途中で難所に突き当たった。
 それは、避けては通れない深い泥の水溜り通路で足の低いジープは、自走では渡り切れないのだった。そこでまた一策を講じ、カンポでは適当な樹も植わっていないので、ペオンに向こう側へ渡ってウインチを引っ掛ける頑丈な杭を打ち込んでもらった。
 この仕掛けもペオンのお陰で何とかできて、ウインチのワイヤロープを一杯に伸ばし件の杭に    掛けて、瀬川技師達には降りてもらい、ソロソロとウインチを巻き取りながらジープを泥水に浮かせるようにして無事に渡るのに成功した。