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ニッケイ俳壇(909)=富重久子 選

サンパウロ         林 とみ代

指揮棒に合はぬ合唱百千鳥

【「合唱」、多くの人と声を揃えて歌うのは実に楽しく、またよい歌曲の合唱を聴くのも楽しいものである。
 この句の様に、楽譜を見るのにとらわれて指揮棒に合わないということはよくある事。それにしても季語の「百千鳥」がユーモアも交えたよい選択の佳句である】

二輪車の若きカップル春の風

【「二輪車」といえば自転車、「春の風」に乗って若いカップルの颯爽とした姿の想像される楽しい清々しい佳句で、巻頭俳句として推奨させていただく】

それぞれの指定席らし百千鳥
屋根瓦落して激し猫の恋
紺碧の空に魅せられ野に遊ぶ

カンポス・ド・ジョルドン  鈴木 静林

野火猛り麓の村も見ゆるかな

【丁度この俳句をパソコンで打っている時、夕方の便で「鈴木静林」さんの突然の訃報が届き驚いています。その一日前には、静林さんの句稿とお手紙を受け取ったばかりでした。
 鈴木静林さんは、かずまと同じ年でカンポスにムダンサする前日、その知らせを告げに来られかずまと長らく話して帰られました。心からご冥福をお祈り申し上げます】

山笑ふ砂場に遊ぶ子供達
野火走る火消しに農業散水機
春近し野に小鳩鳴く昼下り

サンパウロ         渋江 安子

春の夜後ろの人を遣り過ごす

【この句は暖かな春の夜、家路を急いでいると後ろから人の気配がする。振り向く事も出来ずそわそわしながら、そっと脇によって後ろの人に道を譲った作者であろう。その時のほっとした作者の気持ちは、そんな経験のある私にもよく分かる。「遣り過ごす」という下五の言葉が実によい締めくくりであった】

初蝶や好みの花のある如し
二・三日行方不明や猫の恋
水草生ふ川で遊びし友何処

サンパウロ         平間 浩二

野火走る風一陣になほ闌る

【奥地で野焼きをしたことがあるが、村中の人が共同でやる。馴れたものであるが、風の酷い日は恐ろしい位である。  
 夜になると残り火が、この句の様に一陣の風に尚猛り狂うこともあり、すさまじい火勢に驚いたものであった。よい写生俳句である】

春灯やホ句もダンスも我が人生
恋猫の戻りし顔の穏やかに
煙草の火にほひ漂ふ春の闇

サンパウロ         須貝美代香

カンテラを下げてシネマや春の闇

【懐かしい俳句であった。我々が新移民として奥地に入った頃、学校の講堂で映画があるというので、夜道を歩いて観にいったものである。
 道々人家が無く真っ暗で、カンテラを点して親子して暗闇を歩いていった記憶がある。もう今から半世紀も昔の事であるがこの俳句で、懐かしく新移民と呼ばれた頃を思い出している】

どの道も我が家へつづく春の闇
買物を開き見せ合ふ春燈下 
春の燈に針の仕事の捗らず

サンパウロ         近藤玖仁子

亡き夫よ今咲いてます合歓の花

【「合歓の花」はよく並木に植えられていて親しい花、夕暮れになるとその葉は合掌して眠る様であるのでこの名がある。淡紅色でほのぼのとした花を咲かせる。
 「今咲いてます合歓の花」と、先立たれた主人に語りかけている優しくも、寂しい佳句であった】

前置きの長き大葉を貰ひけり
朝まだき名知らぬ鳥の歌ひをり
句帳もて季題目の前蜆蝶

サンパウロ         大原 サチ

水温む厨明るく新メニュー

【ブラジルに来てこんなに寒さを感じるなど考えなかったが、年のせいか今年は特に余寒も続き寒い冬であった。
 その様な季節の中で、最近やっと「水温む」の感じに炊事の手も馴れて来た様である。厨で家族の為に何か新しいメニューで、夕食の支度に取り掛かろうとしている作者の姿が見える佳句であった】

春野来て絵筆とる子の夢多き
春光や試合始まる草野球
庭に来て仲間呼び合ふベンチビー

サンパウロ         玉田千代美

心地良き頬撫でくるる春の風

【最近やっと春らしいそよ風がふいてい  たが、またまた余寒がぶり返してきて夜な夜な寒さを感じたりする。しかし暦の上では今が春爛漫の季節でなければならない。「頬撫でくるる」春風の待たれるこの日頃である。優しい佳句であった】

恋やつれ食欲無くし恋の猫
逢へばすぐ心通ひて春灯下
針に糸素直に通り春灯下

セザリオ・ランジェ     井上 人栄

公園が自慢の街や百千鳥

【「百千鳥」は春になると森や春の山などで、色々な小鳥が群がり囀っているのを言う。この句は手入れの行き届いた街自慢の公園で、植えられた木々の中から小鳥達のきれいな騒がしい鳴き声が聞こえてきて、春の様子を詠んだ佳句】

ぬばたまの闇をつんざく猫の恋
赤い靴嬉しき孫や野に遊ぶ
百千鳥大樹あふれんばかりなり

ファッチマ・ド・スール   那須 千草

昼の月土の匂ひや風の中

【「昼の月」と断っての一句。それは夜の月と昼の月との違い。都会に住む我々は偶には昼の月を何気なく見ることはあるが、この句のような俳句は詠めない。
 作者の見上げた空に「昼の月」が微かに望まれたが、それは夜の月とは全く違った趣の月であった。田舎の耕された畑の瑞々しい土の匂い、そしてさわさわと吹く春風の中に、静かに誰にも認められることもなく西の空へ隠れてしまう。そんな月を詠んでの珍しい佳句であった】

鳴き交す春告げ鳥やセリエーマ
振り返る過ぎにし日々や春灯
百千鳥牛の残せし餌拾ふ

サンパウロ         鈴木 文子

日曜の園の賑はひ百千鳥
春の風嬉しき便り運び来し
うららかやお陰さまてふ暮しぶり
山笑ふ幸せ太りかも知れぬ

サンパウロ         菊池 信子

春燈に優雅さ増せる生花展
春燈下古きアルバムなつかしむ
騒がしくなりふりかまはぬ猫の恋
如何にして共に生きるや百千鳥

サンパウロ         原 はる江

ユーカリの茂る山家の百千鳥
老親をみる娘にやさし春の風
野遊びや車窓に眺むイビラプエラ
パラリンピック一人で見入る春灯下

サンパウロ         秋末 麗子

屋根の上大騒動の猫の恋
水草生ふ広き沼池緑濃し
静もりて山の遠近春の燈
燃え移る野焼きの炎不気味なる

サンパウロ         高橋 節子

蒲公英や小さき命風まかせ
花好きで一年掛けて蘭咲かす
九十歳越えて天命天の川
今年ほど春待ち侘びる年はなし

サンパウロ         上村 光代

音立てて道端走る猫の恋
良い天気野遊び楽し孫達と
思ひ出す楽しき日々よ野遊びを
バスを待つ気持ちよく吹く春の風

サン・カルロス       富岡 絹子

果樹ありて隣の庭の百千鳥
猫の恋塀高くして越えられず
親兄弟すべてライバル猫の恋
野遊びや付き纏ひ来る野良も居て

カンポ・グランデ      秋枝つね子

冬の手芸ペンの頭に梟付け
木の葉髪かゆいおできが二ヶ所あり
木の葉髪孫にすかせてお小遣ひ
冬の手芸石鹸に絵を五十書く

ボツポランガ        青木 駿浪

小康の妻の枕辺シクラメン
趣味多き老の幸せ冬うらら
妻看取る事が明け暮れ春を待つ
大景の外灯繋ぐ冬銀河

ペレイラバレット      保田 渡南

角笛を吹いて牧場に春を待つ
海遠く移民古りたりパイネーラ
海知らぬ子等すこやかやパイネーラ
極限の力に美あり五輪祭

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